Poke-mon

□流星☆ハニー
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《S》







足元のコンクリートは外気に晒されてただでさえ硬いのに冷たさまで追加されてひどく坐り心地が悪い

当たり前だ。ここはヘリが行き来するための場所であってこうして食べ物やらを持ち込んでピクニック紛いのことするために作った訳ではないのだから

だというのに育て屋は何を思ったのか急にここで星が見たいと言い出し、更に私もそれを承諾してしまった


きっと部下達は私が気でも狂ったかと思っているに違いない


こんな辺鄙な場所で夕食を取ると言い出したかと思えば必死になって今日の執務を終わらせて慌てて育て屋の家に行って今こうしてここにいる
こうして風対策にわざわざ部下から重力の使えるポケモンを借りたりして


どうかしている
まったくもってどうかしている

「サターン?」

「今行く。それより献立はなんだ?」

「えぇと卵焼きとオクタン型ウィンナーとハンバーグと…」

質素な内容だがバスケットを覗き込んでみるとそれは彩りよく詰められていて不覚にも食欲をそそられてしまう

そういえば仕事に追われて今日はろくに食事をとっていなかったか

「腹が空いた。さっさと用意をしろ」

「はいはい」

言いながら彼が箸を差し出してくる

自分で取って食べろということらしい

私はそれに手をかけ左右に引っ張った


ばきん


「…あ」

しかし、それは途中で繋がったところがうまく割れることなく片方が短いひどく不格好なものになっていた

「あー…失敗しちゃったみたいだね。困ったな、予備忘れちゃったみたいだ…」

傍らでそれを見ていた育て屋が少し困ったようなそぶりを見せてから自分用に割ったらしい箸を差し出してきた

「これ、使っていいよ」

「……待て。これでは君の分がない」

「俺は別に…お腹空いてないし」

「だが私一人でこんなには食えん」

「じゃ、じゃあ手で…」

「……、……、あぁそうか」

しどろもどろになっている彼を見遣りながら私はふと名案を思い付いた

「ならそれを使って君が私に食べさせてくれればいい」

これなら私は手を使わず楽に食事が出来るし後は彼がそれを使えば問題ない。元は彼の箸なのだから

「え…」

「ほら、はやくしろ。私を餓死させる気か」

何故か口許が緩みそうになるのを堪えて反論させぬように急かすと彼は少し困惑気味にしながらも差し出した箸を持ち直した

そして遠慮がちに「どれがいい?」と尋ねてくる

「卵焼き」

「わかった。…はい、あーんして」

彼の言うままに私は口を開ける。すると口腔にふんわりと甘い卵焼きが運ばれた

ゆっくりとそれを咀嚼すると程よくダシを効かせたそれの味が口一杯に拡がった

やはり卵焼きは砂糖入りのダシ巻きに限る




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