Poke-mon

□流星☆ハニー
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《R》





「美味い」

「あ、ありがとう」

「次はそっちだ」

「こっち?」





彼に請われるままに次々とおかずを箸に取って彼の口へと運ぶ

こうしていると何だか小鳥に餌をやる親鳥のような気分になってくる
無防備に口を開けて俺が食べ物を運ぶのを待つ姿は微笑ましさすら感じさせる


…なんて言ったらきっと怒るに違いないだろうけど



それにしても本当に彼はお腹が空いていたらしく、彼がもういいと言う頃にはあれほどあった中身はもう三分の一近くまでに減っていた


「お茶」

「はいはい」

俺は傍の簡易湯沸かし機の上でカタカタと揺れていたケトルを手に取って予め茶葉を入れておいたポットに湯を注ぎ紅茶を入れた

しばらく蒸らしてから二人分のカップにそれを注ぐとサターンの分にはブランデーを一滴と甘いミツをスプーンに一杯掬って入れた

「はい、どうぞ」

「ん」

俺の手から紅茶を受けとって一口。……とりあえず文句は出てこない

前に普通にお茶を出したら表情ひとつ変えずに駄目出しした揚げ句これが世界の常識だと言わんばかりに彼の好みを聞かされ、今はその通りに煎れるのが常となっている

どうやら彼は甘党のけがあるらしい

以前そのことを言ってみたら「普通だ」と返された


彼にとっての普通の基準て一体誰なんだろう…


たまに不思議に思う


「…食べないのか?」

「えっ?た、食べるよ…」

思考を遮るかのように響いた彼の声に俺は慌てて箸でオクタン型のウィンナーを取って口に放り込んだ

口腔に肉の味を感じて漸く自分の空腹感を思い出してそれを飲み込んだ


そして隣で食後のお茶を飲んでいるサターンをちらりと見遣った


(思えば長いこと一緒にいるものだなぁ…)

それは一緒にお茶を飲んだり食事をしたり

相手に我が儘を言ったり、好みを熟知していたり

互いのテリトリーに踏み込むことが出来る程に



「……それ」

「え?」

口に運ぼうとしていた卵焼きを彼が指差した

そして何か物言いたげにこちらを睨みつけている


…食べたいってことかな?


「…どうぞ」

「ん」


さっきはもう腹一杯だと言っていたのに本当に気まぐれな奴だ
差し出された箸に挟んであった卵焼きを一口で食べてしまうとまた紅茶に取り掛かり始めた


…結局自分で作った卵焼きは味見分を除いてひとつも口に入ることはなかった






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