Poke-mon
□高嶺の花は堕ちてこそ
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グラウンドで部活動に励む生徒達の喧騒を背に少年は日の沈み始めオレンジ色に染め上げられた廊下を一人歩いていた
つんとしたくせ毛はそれとは対称的な宵闇色
同じ色の瞳は目的の部屋を見つけると何処か楽しげにすぅ…と細められた
彼はノックもせずに『生徒会室』と書かれた部屋の扉を無遠慮に開け放った
「うわっ?!」
勢いで積み上げてあったらしい書類がぶわりと宙を舞う
中で作業をしていたらしい少年の情けない声が上がり彼はしてやったりの笑みを浮かべた
「いつまで私を待たせる気だ、レイジ」
「さ、サターン…?」
一つ結びにした桔梗色の髪をゆらゆらと揺らしながら床に散らばった書類をかき集める少年が不思議そうに顔を上げた
「あの…俺、君と約束していたっけ…?」
「だからこそこうしてここにいるのだが?」
「あ…そうだよね。ごめんね、もう少しだから」
約束していたと認識するやレイジは慌てて書類整理を再開した
サターンは近くにあった坐り心地の悪そうな椅子を引っ張ってくるとそこにどかりと腰掛けて彼を待つようなそぶりを見せた
…約束していたなんて実は嘘だ
単に彼が生徒会の仕事があると聞いたから勝手に待っていただけだ
だが案の定長時間の仕事で疲れている彼の頭は程よく思考力を低下させているらしくそんなサターンの嘘から疑念を解くのにそう時間はかからなかった
ちょろいものである
「えっと…何か飲むかい?コーヒーか紅茶しかないけど」
「コーヒー、ミルクと砂糖入りで」
「わかった」
言いながらレイジは席を立つと部屋の隅にある給湯所で手早く二人分のコーヒーを作って持ってきた
「どうぞ」
「あぁ」
彼の手からカップを受け取るとサターンはゆっくりとそれを口に運んだ
香りを損なわない程度に入れられたミルクと砂糖がコーヒーの苦さを程よく和らげ円やかな口当たりとなっている
彼は本当に人の好みを覚えるのがはやい
そんなことを思いながらサターンは斜めに位置する場所から仕事を続ける彼を眺めた
「…まだか」
「んー…もうちょっと」
「早くしろ。腹が減った」
「それなら先に帰っていてもよかったのに…」
「何か言ったか?」
「いいや、何も!……よし、これで完了っと」
とんとんと書類を束ねて近くの棚に仕舞ってからレイジはぐーっと大きくひとつ伸びをした
「ごめんね、こんな時間になるまで待たせちゃって。でも、俺本当に覚えてなくって」
いつ約束したんだっけ?なんて首を傾げる彼の手首を、サターンは舒に掴んでキリ…と力を込めた
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