Short Dreams

□純白の世界へ
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人間生きている限り、いつ何を失うか分からない。



昼間、出掛けている間に届いた訃報。
私は家族を一度に失った。

家族揃って無理心中。
エクセプト私。

遺言書には、
「あなただけは幸せになって」
と望んでもいない言葉が書かれていた。



私は周囲の同情の声が作り出す騒音から逃げようと、一人ふらりと家を出た。








月明かりに照らされた夜の公園。
一人になりたくてやってきたというのに。



「君、何で泣いてるの?」



錆び付いたブランコに腰掛けていると、少し離れた所から白い男が話しかけてきた。




『泣いてなんかないわ』



私の言葉は事実だった。

家族を失ったにも関わらず、私の目からは涙一粒零れる気配もないし、むしろ乾燥していて目薬が欲しいくらい。

それなのに何なんだこの男は。
誰もいない夜の公園をせっかく独り占めしていたというのに。失礼にも程がある。

まぁもっとも、この公園の所有権が私にあるわけでもないのだが。



「そう?」

『...ええ』



私が心の中で文句を垂れているうちに、いつの間にこんなに近くに来たのだろう。
その白い男は私の隣のブランコに腰掛けていた。

内心驚きを隠せなかったが、ポーカーフェイスを保つのは得意だ。
警戒しつつも平然と返事を返す。



「そんなに身構えないでよ
僕がそんなに悪い男に見える?」

『!!』



どうして警戒していることがばれたのだろう。
同様を隠せなかった私は、思わず男に顔を向けた。

男は微笑みながらブランコを漕ぎ始める。

ギィ、ギィ、と軋むブランコを漕ぎ続ける白い男は、月の光を受け輝いていて、思わず目を奪われた。

そんな自分に気付いて慌てて視線を逸らしたら、クスリと笑われた。


何こいつ、むかつく。



『悪い男かどうかは知らないけど、私今ひとりで考え事してたの
それを貴方に急に邪魔されて、はっきり言って不愉快だわ』

「それは失礼」



白い男は漕ぐのをやめ、地面に足をついた。
だが一向に立ち去る気配はない。

あぁ、苛つく。
もうひとこと言ってやろう、そう思い口を開きかけたら、白い男に先を越された。



「でも、泣いてる君を放っとけなかったんだ」

『だから泣いてないって言ってるでしょ?!』



苛々を押さえ付ける事が出来ずに、男を思いきり睨み付けた。
もう得意のポーカーフェイスも糞もない。



「自分の気持ちを分かってくれる人はいない、って思ってない?」

『そ、そんな事...』

「僕には君の心が悲鳴を上げてるように見えたんだけどな」

『―!!』

「違う?」



まただ、この男は。
まるで人の心を見透かしているかのように、確信を持って言葉を投げかけてくる。

戸惑いを隠せない私を余所に、男はブランコから立ち上がると、私の前にやって来た。




「一人ぼっちは寂しいでしょ?」

『...。』

「僕はこれから新しい世界を創るんだ
一緒に来ない?」



きっと彼には何を隠しても無駄なのかもしれない。


知らない人に着いて行っちゃだめ、いつか教わったことだけど、そんなの知らない。


私は差し延べられた手を素直に掴んだ。

彼の手は周囲の人がかけてきたどんな言葉よりも温かくて、私の頬に涙が伝った。

それを見た彼は優しく微笑む。



「悪いようにはしないから」







†純白の世界へ†




純白の彼と共にいきます。

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