君と出逢ってまた恋をした

□『涙』
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放課後

「あっ!しまったぁっ!」
「あ?」

急に大きな声をあげるゆきな。
近くにいた海があたしの声に反応する。

「ゆきに住んでる場所聞くの忘れてたー!!」
「は?
お前ら一緒に住んでんじゃねぇの?」
「…住んでない」

キュッと自分の手を握る。

「母さんが…
ゆきはあたしに甘えるからって
なるべく一緒に居させないようにしてるんだ…
だから…
あたしとゆきは
一緒には暮らしてない」


あたしは母さんが苦手だ…。
小さい頃から母さんは忙しい人だった。
今も忙しい人だけど
だけど母さんは
昔っからゆきには甘かった。

あたしはそれが
羨ましかった…。

「ゆきな…?」

ハッ

「あー…いや、だからさ
なんていうの?
場所さえ知ってれば
安心でしょ?」
「まぁな…」

(ヤバいヤバい…
あたしってば
また変な方に思考を飛ばしてた)

「小夏さんって
そんなに厳しい人だっけ…?」
「厳しいよ…
あたしには」

ニッと海に笑いかける。

「ゆきも武道を習ってたんだけど
なんかあたしには
その素質があったみたいで…
ずーっと武道の練習ばっかりさせられてたなー」

小さい頃のことを鮮明に思い出しながら
あたしは

つらつらと話し出した。

「ゆきは武道とか力が無くても
笑顔があった…
人見知りをしないあの子だから
自然と人がよって来て
いつの間にか中心の存在になってた…」

そんなゆきが
羨ましくて…

でもあたしは
逆に人見知りが激しくなった…。

「小さい頃から
母さんにべったりだったゆきは
子どものモデルから始まって
子役に出演したことも多々あったんだっ」

テレビや雑誌の中で見るゆきは
誰よりも輝いていた。

ゆきのことを話すゆきなの目はどこかキラキラとしていて
優しくそして時に
切なげだった。

「あたしは常にゆきのボディーガード
それはそれで良かった…
あたしもゆきを
守れるなら幸せだったし
それが当たり前だと
思ってた…」


でも…
それはあの日で
終わってしまった…。

あの日以来
母さんはさらに厳しくなった気がした。

だからあたしも
母さんの前で
弱音も嘆きも言わなかった。

「へへ…だからかな?
せっかく強くなったのに
ゆきがいないんじゃ
なにを守っていいかわかんなくなっちゃってさー
とりあえず大好きな武道を続いてみたけど
まだ答えが出なくって…」

「なんでお前が守らなくちゃなんねぇんだ?」

「え…?」

急な海の言葉にあたしは周りの音が一瞬だけ
聞こえなくなった感じがした。

「なんでお前が
我慢する必要があるんだよ…」
「…それ、は…」

我慢?

違う…

違うはずなのにあたしは言葉が出て来なかった。

「お前が武道好きなのは知ってるよ…
ゆきが好きなのもな…

だけど」

ぐいっ

「!」

海が近づいたと思ったら腕を引かれて
抱きしめられていた。

「お前だって守られたって良いんだよ…
我慢せずにわがまま言ったって良いんだよ」
「―…」

そんなこと

言うなよ…っ

ドンッ

「!」

あたしは海を思いっきり押した。

「…で…」
「ゆきな…?」

海はゆきなが何を言っているかわからなくて
名前を呼ぶ。

「勝手なこと…っ
言わないでっ!!」
「――っ」

鞄を持ってあたしは教室を飛び出した。

「…勝手なのはどっちだよ…っ」

くしゃと髪を掴みながら海は苦しげな表情でゆきなが立ち去った教室を後にしてゆきなを追った。


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