NOVELS
□約束10
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※スクアーロside
「……ねぇスクアーロ、」
手に持ったコーヒーカップに口をつけながら、姿勢よく椅子に座ったルッスーリアが声をかけてきた。
次にくる内容が想像できたスクアーロは、顔をしかめると、無駄な抵抗とは思いつつも、黙って席を立った。
引かれたカーテンを手で捲っても、そこから見えるのは雑木林ばかりだった。
ここ、ヴァリアーの本拠地は、シチリアにある森の奥、鬱蒼と繁った林の中にある古城だ。
昼間でも光のあまり届かない立地のため、部屋の中はいつも薄暗い。
スクアーロを始めとした幹部たちが集まる部屋は、その古城の最上階にあり、下っ端構成員達が入り口を守っている。
「ちょっとスクアーロったら、聞いてるの?」
「チッ……なんだぁ゙ぁ」
高く作ったオネェ口調が不快で、スクアーロは舌打ちをした。
しかし、そんなことどこ吹く風で、ルッスーリアは話をすすめる。
「最近ボスってば、なんであんなに機嫌が良いのかしら」
「……さぁなぁ」
言葉を濁しながら、スクアーロは目線を泳がせた。
それに目敏く気付いたルッスーリアが、さらにキーキーと言葉を続けた。
「ちょっとスクアーロったら、何よその白々しい返事。明らかに何か知ってる風じゃないの」
「……あぁ゙ぁ゙っ、うるせぇ゙えっ!!知らねぇもんは知らねぇ゙っ!!」
これ以上オカマに詰問されるのが嫌で、スクアーロはそれを振り切るように、足早に部屋を後にした。
後ろでまだルッスーリアが喚いているのが聞こえたが、勿論無視だ。
入り口に立っていた下っ端たちが慌てた顔をする事にさえイライラした。
ボス……つまりザンザスの機嫌が良い理由。
そんなもの、聞かなくとも1つしかないことをスクアーロは知っていた。
顔はいつも通り無表情なザンザスだが、醸し出すオーラが明らかに違う。
いつものザンザスの背景が黒だとしたら、今は桃色なのだ。
はっきり言って、気持ちが悪い。
何があったかは知らないが、アイツが関わっているのは間違いないだろう。
どんな形であれ、ザンザスが感情を顕にするときには大抵、アイツ絡みだ。
そう、いつも、アイツだ。
どんなに側にいても、スクアーロには埋めることの出来ない溝を、アイツはあっさり埋めていく。
それが喜ばしい事だと感じると同時に、悔しくもあった。
あの時、綱吉をザンザスの所へ通したのは自分だ。
綱吉の熱心さに心動かされた、なんてのは言い訳で、結局自分は、彼にザンザスを救って欲しかったのだ。
自分には無理だと、綱吉にその役を押し付けた。
そのくせ、自分にその役が務まらなかった事に、未だに納得出来ない己がいる。
我ながら、矛盾している。
「チッ……」
こんなことで心乱れるなど、剣士として言語道断である。
ただ、そうは思ってもスクアーロだって人間だ。
分かってはいるが、これはかりはどうしようもなかった。
螺旋階段を降り、スクアーロは小さな部屋に入った。
中には壁に沿って本棚が置かれ、様々な書物が納められている。
部屋の真ん中には木製のデスク。
羊皮紙とペンが乗っており、さっきまで誰かが仕事をしていた風だ。
知らぬ者が入れば、ただの書斎に見えるだろう。
スクアーロは迷いなく部屋の奥に進むと、デスクの上にあるランプを右に傾けた。
途端、どこからかカチッと音がなり、かと思うと、地鳴りのような音と共に、デスクが横にスライドした。
下から現れたのは、地下へ続く階段である。
この通路の存在を知っているのは、ヴァリアーの中でも一部の人間のみである。
スクアーロは念のため辺りを見回してから、階段に足を踏み出した。
一歩踏み出すごとに視界が悪くなり、階段を降りきる頃には、夜目のきくスクアーロですら、何も見えないほどになった。
スクアーロはすかさず右手に炎を灯すと、ボックスを開放した。
ボオッ、と炎の灯る音と共に、巨大な鮫が現れた。
「いけぇ゙ぇ゙っ」
スクアーロが手をかざすと、それに従って鮫が暗闇に向かって突進する。
すると、壁に炎が灯り、徐々に明るくなった。
この通路には、炎に反応するボックスがいくつか仕込んである。
明るくなった通路を見つめながら、スクアーロはため息をついた。
この通路は、ボンゴレのトップに君臨するアイツの元へ繋がっている。
ここを任務以外の用事で利用するのは、これが初めてだった。
「はぁ゙ぁ゙……俺は何やってんだぁ…」
戻ってきた鮫が不思議そうに主人を見てくる。
そのザラついた鼻を一撫ですると、スクアーロは歩き出した。