NOVELS

□約束11
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「……10代目?」

獄寺くんの怪訝な声に、綱吉はハッと顔を上げた。

「え、え?…ど、どうしたのそれ?」

綱吉のデスクの横に立つ獄寺くんの手には、氷枕が握られている。

……古風な。
っていうか、なんで氷枕。

「10代目…熱でもあるんじゃないスか?ここんとこ、ずっと上の空ですし、……なにより、なんだか顔が赤いですよ」
「、っ!?」

ズバリ核心を突かれ、綱吉はカッと赤くなった。

「ほらまた……寝た方が良いッスよ。……リボーンさんから事情は聞きました」
「え、えぇっ!……な、なにをっ!?」

まさか、まさか。
やっぱりリボーンってばザンザスとのことに気付いて……っていうか言っちゃったのかよ。

ドキドキバクバク。
上がっていく心拍数とは対照的に、さぁっと血の気が引いた。

この、…自分で言うのもなんだが、10代目一筋の獄寺くんにザンザスとの関係がバレてしまったら…。

彼なら単身、ヴァリアーの所へ乗り込みかねない。
想像すると、なんだか本当に具合が悪くなってきた。
今度は青ざめ始めた綱吉を心配そうに覗き込むと、獄寺くんは氷枕を差し出してきた。
受け取りながら、そっと彼を見上げる。

「…10代目、ここんとこずっと夜中まで仕事してるらしいじゃないスか……。いくら10代目でも、身体が持たないッスよ、」

獄寺くんが屈んで、綱吉の額に触れてくる。
熱なんてあるわけ無いのに、その顔は酷く真剣だった。

「……え、あ、うん、そ、そうだね」

内心ほっとする。

……仕事。
リボーンが上手くごまかしてくれたらしい。

…そしてやはり、リボーンはすべてお見通しなんだろう。

心の中で胸を撫で下ろしながら、リボーンに感謝する。

「……ありがとう、えっと、それじゃあ、少しだけ休ませてもらうね」

笑いかけると、獄寺くんがホッとした顔をする。

申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちがない交ぜになって、綱吉は目線を反らしてパッと立ち上がった。


執務室の隣に備え付けられた仮眠室に入ると、用意されていたベッドにダイブした。

ギシ、とスプリングが軋む。

氷枕は、申し訳ないがベッドサイドに置かれたスツールに放っておいた。
寝不足は本当だが、熱がある訳ではないのだ。

「はぁ……」


目を閉じると、浮かぶのはアイツの顔ばかり。

最近の寝不足の原因でもある。

一時期の穏やかさが嘘のように、最近、またザンザスと致す回数が急激に増えていた。

呼ばれる頻度が変わらないまま行為の回数が増えたのだから、正直、身がもたない。

「まじで、勘弁して欲しい……」


昨晩も、もう無理だと泣く綱吉の事などお構いなしにザンザスが抱くものだから、綱吉が眠ることを許されたのは太陽が顔を出してからだった。


本当ならそのまま1日寝ていたかったが、そうもいかない。

ザンザスとの関係がバレる訳にはいかないし、仕事もある。
結局2〜3時間の仮眠だけをとって、綱吉は自室に戻ってきたのだ。


ただ、今の綱吉の本当の悩みは、それが原因ではないのだ。

昨晩の行為を思いだし、綱吉はポッと頬を染めた。

「最近……なんか、優しい、んだよなぁ……」

呟くと、ぐわっと羞恥が押し寄せた。

誰に見られているわけでもないのに、綱吉は頭からシーツを被ってまるくなった。

「うわぁーっ、何言ってんだ俺っ!?」


強引なのは変わらないし、待ってと言っても聞いてくれないが、綱吉に触れるザンザスの手や唇、視線がなんだか最近柔らかいのだ。

ザンザスに対して好意を持っている綱吉とすれば、嬉しい反面切なくて、少しでも気を緩めれば彼のことを考えてしまうのだ。

結果、忘れるためのハードな仕事にのめりこみ、獄寺くんに心配を掛けてしまった。

元々、綱吉とザンザスを繋ぐのは、契約という名の口約束だ。
そこに恋愛感情なんていうものは、あってはならない。

…本当は、離れるのが一番なんだろう。

でも、契約を抜きにしたって、綱吉はもう、ザンザスから離れられる気がしなかった。

あの、淋しい目をした彼を、独りになんて出来ない。
いや、そんなのは詭弁で、ただ自分が、彼のそばにいたいだけなんだ。

「……あぁもう、寝れないよっ」


頭を抱えると綱吉はバッと起き上がった。

水でも飲もうと立ち上がる。
ちょっと立ちくらみがして、綱吉はこめかみを手で押さえた。

やばいマジで具合が悪い。

ふらつく身体を叱咤して、なんとか入り口まで向かう。

「あー……本当に熱が上がってきたかも」

ぼやきながらドアに手を掛けようとすると、それより先に、その扉が開いた。

獄寺くんだろうか、と思い顔をあげると、立っていたのは予想外の人物だった。







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