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□約束12
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「スクアー……ロ?」
自分の喉から出た声が思った以上に掠れていて、綱吉は驚いた。
目の前に立つスクアーロも、珍しく目を見開いている。
「具合、わりぃのかぁ゙ぁ……?」
「いや、あの、ちょっと、寝不そ…く……、あ」
あ。
しまった。
という顔をスクアーロもした。
事情を理解したのだろう。
綱吉は顔が赤くなるのを感じた。
スクアーロがさっと視線を逸らす。
い、いたたまれない…
上手く誤魔化せない自分に泣きたくなった。
「す、すみません…、え、えっと、何か俺に用でした?」
「いや、大したことじゃ……」
言いかけて、不自然に言葉を区切ったスクアーロを、綱吉は首を傾げながら見上げた。
スクアーロは、ぁ゙ぁ、とか、くそ、とか言うと、頭をバリバリと掻いて綱吉に向き直った。
「……わりぃが、ちょっと話せるかぁ?」
スクアーロの真摯な視線に、綱吉はパチパチとまばたきをすると、恐る恐る、といった感じに頷いた。
「……はい、どうぞ」
「あぁ゙…」
スクアーロにティーカップを差し出すと、綱吉も同じ装飾のカップを手に持ってベッドに腰掛けた。
体調があまり良くない綱吉を気遣ってか、応接室に通そうとする綱吉を遮って、スクアーロはここでいい、と言った。
ただ、さすがに茶の一杯も淹れないのは…、と日本人気質な綱吉は、渋るスクアーロを押し退けて、即席インスタントコーヒーを持ってきた。
リボーンから言わせれば、あんなのは水だ、ということらしいが、お手軽なそれを、綱吉は愛飲している。
「すみません、インスタントで……口に合わなかったら、そのままにして下さい」
控えめに言う綱吉に、スクアーロは別に良い、というと、そっとカップに口をつけた。
ほっとして、綱吉もコーヒーを啜る。
暖かいコーヒーが喉を通ると、胸がぽかぽかした。
ふぅ、と一息つくと、綱吉は改めてスクアーロに向き直った。
「……あの、それで、ザンザスがどうかしたんですか」
「…………っ」
問いかけた綱吉に、スクアーロが驚きの顔を見せる。
綱吉としては当然の事を聞いたつもりだったのだが、もしかして違ったのだろうか。
「あ、す、すみません、違いました?」
そうだとしたら非常に恥ずかしい。
綱吉はカップを持っていない左手をワタワタと動かした。
「いや、間違ってねぇ゙ぇ……ただ、なんで俺がボスのことで来たとわかった」
スクアーロが照れくさそうに視線を逸らした。
綱吉はピタリと動きを止めると、ふ、と笑みを溢した。
だって、スクアーロが心配する人物なんて、彼しかいない。
そんな綱吉の笑みにスクアーロがピクリと反応する。
「ゔぉ゙ぉぉいっ、てめぇ……今笑いやがったなぁぁ゙」
「ひぃぃっ、ご、ごごごめんなさぃっ」
ダミ声プラス絶対零度の瞳で睨まれて、綱吉は後ずさった。
そんな綱吉を見て、スクアーロが舌打ちをする。
「チッ、まぁいい……最近、ボスさんの様子がおかしい……、」
何をしたんだ、という言葉を、スクアーロはぐっとのみ込んだ。
別に、綱吉を責めるために来た訳ではないのだ。
ただ、何故ザンザスがコイツにこんなにこだわるのか、その理由が知りたかった。
「あ、やっぱり、スクアーロさんもそう思いますか」
「ぁ゙……?」
あっさりと同意した綱吉を、スクアーロはぽかんと見つめた。
そんなスクアーロに気付かず、綱吉は言葉を続ける。
「なんか、雰囲気変わったっていうか……ちょっと丸く?なったというか…。纏う空気が、変わりましたよね」
そう言ってフワリと笑う綱吉を、スクアーロは、初めは呆けて眺めていたが、段々と、そんな綱吉に、じんわりと胸が温かくなるのを感じた。
綱吉の目に、最近のザンザスはそう映るらしい。
「あぁ…、そぉだなぁ」
「ですよね!…ザンザス、何かあったんですかね?」
今度は不思議そうにスクアーロを見つめてくる。
そんな綱吉に、スクアーロは笑いを耐えるのに必死だった。
「はぁ……馬鹿か俺はぁ゙」
「え……?」
きょとん。
そんな効果音が付きそうな顔をしている綱吉の頭を、スクアーロは立ち上がってポンポンと撫でた。
紅茶色の髪の毛は、見た目よりも柔らかく、触り心地が良かった。
…確かに自分には、この純真さは無い。
マフィアのボス、という座にいて、更に、ザンザスにあんな目に逢わされても、綱吉に汚れた様子は一切なかった。
ストンと、胸のつかえが取れた気持ちだった。
スクアーロはザンザスと、闇を共有しすぎたのだ。
だからこそ、傍に寄り添うことが出来たが、だからこそ、闇に囚われた彼を救うことが出来なかった。
綱吉の持つ、眩しいくらい暖かいそれに、ザンザスは恋焦がれるんだろう。
スクアーロは、ふ、と笑うと、綱吉の頭から手を離した。
「沢田綱吉ぃっ!!」
「は、はいっ!!」
「…うちのボスさんを、頼んだぞ」
言うだけ言うと、スクアーロはさっと身を翻した。
直接見なくても、綱吉が呆けた顔をしているのは想像がついた。
そのあとに、真っ赤になるだろうことも、容易に予想出来た。
それを眺めたい気もしたが、同じくらい赤くなった自分の顔を見られたくなくて、スクアーロは、先程アジトを出た時と同じくらい足早に、部屋から飛び出した。
その時と気持ちは、全く違っていたけれど。