NOVELS
□逃避行
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「……あれ」
そう、思わず呟いて、綱吉は頭上にある看板を見上げた。
嫌な予感がして、辺りを見回すが、レンガ造りの建物が続く裏道は、どこも同じものに見えた。
それでも、もう少し歩けば知った通りに出るのでは、と、淡い希望を胸に歩き続けたが、進めば進むほどわからなくなって、ついには、見たこともない広場に行き着いてしまった。
はぁ、とため息をつく。
やっぱり、一人で出歩くんじゃなかった。
綱吉が出歩く時はいつも、アイツが一緒だった。
イタリアに住むようになって1ヶ月が経つ。
慣れた気になっていたが、こうして迷っている辺り、それは勘違いだったらしい。
「あーぁ……」
沈んだ気持ちで、手に持った紙袋を見下ろす。
彼の好きなコーヒー豆が切れていることに気がついたのは今朝だった。
深夜帰りの多い彼に、エスプレッソを淹れてやろうと思いたったのは、親切心半分、下心半分だった。
いつも自分をダメツナ呼ばわりするアイツに、良いところを見せたかった。
ついでに、驚いた顔を見せてくれないかな、とも思っていた。
軽率な行動を取った一時間前の自分に、心の中で悪態をつく。
「うわぁ、また怒られるよぉ…」
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