NOVELS
□34143HITキリリク
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この状況が、別に他の組織に捕まったとかそういう訳じゃ無いとわかったのは、そこが、よく知った場所だったからだった。
ほのかに香る、血と硝煙の匂い。
生活感の感じられない、極端に物の少ない部屋。
その部屋の奥の壁添って置かれたベッドの上に、自分は寝かされていた。
身体を起こし、首を巡らせると、ハンガーにコートが掛けられたままだったので、この部屋の主は、仕事に行ったわけではないらしい。
はぁとため息をつき、さっきから気になっていた自分の手首へ視線を落とす。
それは、一束にくくられて、銀色の手錠がしっかりと嵌められていた。
くい、と手を引くと、ジャラジャラ重い音がする。
鎖は、ベッドサイドに伸びて柱にくくりつけてあった。
死ぬ気の炎が出せれば焼き切れるかと思ったけれど、その辺りは相手も考えたのだろう、どうやら死ぬ気の炎を妨害する仕掛けがしてあるらしく、さっきからどんなに頑張っても、いっこうに炎が出る気配がない。
「……何考えてんだよ、アイツ」
思い返してみれば、珍しくコーヒーなんか淹れてくれたから、おかしいとは思っていたのだ。
普段の彼といったら、お湯の沸かし方すらわからないくらい、家事が出来ないのだから。
自分だってそんなにアレコレ出来る方ではないけれど、彼を見ていると、まるで小さい頃のランボを相手にしているような気持ちになることがある。
危なっかしくて、放っておけないのだ。
飲んだ後の記憶がなくてコレならば、考えられる要因はあのコーヒーしかないだろう。
睡眠薬でも仕込んであったのか。
完全に油断していた。
リボーンに知られたら、絶対怒られる。
「はぁ……」
でも仕方ないじゃないか、とも思う。
いつも無愛想な恋人が、たまに優しくしてくれた時くらい、気を抜いたって。
トスッと、枕に顔を埋めた。
そこからフワリと彼の匂いがして、ちょっと安心したりして、あぁ俺どうしようもないなぁとか考えて赤面する。
目を閉じて、肺一杯にその香りを吸い込んだ。
―――最後にこの部屋に来たのはいつだっけ。
ここのところお互い仕事が忙しくて、ろくに顔も合わせられなかった。
彼に触れられたのも、随分と前な気がする。
彼も自分も、そういうことに関してはどちらかというと消極的で、ただ二人で一緒にいられるだけで幸せだったから、深い触れあいに発展したのは、数える程しかない。
それでも充分幸せだったし、気持ち良いとか悪い云々よりも、とにかく恥ずかしかったから、自分から求めたことはなかった。
なのに今は、彼が欲しくてしょうがない。
このベッドに乗る時は大抵ソレをする時だから、条件反射でこうなってしまうのかもしれない。
不自由な手で、ギュッとシーツを握りしめた。
「……大好き」
普段面と向かっては恥ずかしくて言えない言葉が、何故かスルリと出てきた。
無性に彼に会いたかった。
自分の部屋に監禁しておいて、そのまま放置なんて酷すぎる。
こんな、彼の気配が充満している所にいるのに、抱き締めてもらえないなんて悔しすぎる。
「……バカザンザス」
今すぐ捜しに行きたい気持ちで一杯だったけれど、手首に付けられた手錠が邪魔で、それも叶わなかった。
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