蟲師

□弐ノ巻
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夜、ある家の納屋を間借りして、

一泊することになった。

夜までには帰ってくると思ったのだが

考えが甘かったようで

ギンコはまだ、竹林から姿を見せなかった。

代わりに、なぜかキスケさんが

里にまで下りてきていた。

「どうして・・。」

彼は竹林から出られなかったはず・・

そう思い彼の後を追いかければ

ある一軒の民家の前で声を上げて帰郷を知らせた。

どうやらそこはキスケの妹の家らしい。

が、中からの出迎えはなく。

もう関わらないでくれと。厳しくも悲しい一言が

キスケに浴びせられていた。

妹には妹の生活がある。家族がある。

それを脅かされたくなかったのだろう。

キスケもそのことについて悟ったのか

悲しげな顔を浮かべながらも

わかったよと呟き、

自身の娘を背中に背負い直し

トボトボと竹林へと帰って行った。

「・・・」

なんとも切ない光景に、

胸が締め付けられるようだった。

キスケさんが切望していた望が叶ったのに

結果としてそれは、

キスケさんを悲しませるだけとなった。

あの竹林から出ることは、

誰の為にもならないのだと思い知らされた。

キスケさんが竹林へと戻って行ったのと入れ替わりに

竹林からギンコがようやっと戻ってきた。

「・・おかえりなさい・・。
 マガリダケは、どうなりました?」

ギンコはなんとも言えない表情で

そっと目をそらした。

ギ「さぁね・・どうなったのか・・」

ギンコは騒めく竹林を振り返り

その林の奥をじっと見据えた

ギ「何事もない事を、祈るばかりだ・・」

ギンコは祈るように目を閉じて一呼吸置けば

気持ちを切り替えるようにこちらを見た

ギ「夜が明けたら、旅路の再開だ。
 休むぞ」

「・・・えぇ、そうですね。」

ギンコがあまり話したがらないので

私も今回の事について深くは聞かなかった。

ギンコと一緒に納屋へと戻り

休息を取る。

目的のない、果てしない旅路に備えて・・・。



→参ノ巻


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