蟲師

□参ノ巻
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随分と長い間、

人里から離れた場所を転々としていたが

今回巡り合ったのは、とても栄えた港町だった。

所狭しと店が並び、宿屋も沢山ある。

久々に野宿から解放されると目を輝かせた。

「ギンコ・・!今回はさすがに宿を取りましょう・・!
 さすがに熱い湯に入りたい・・っ!」

今まで川の水やなんやらで体を洗っていたから

さすがに今回は贅沢をしてもいいだろうと提案した。

ギ「だなぁ・・。
 こんな賑わった町は久々だし、ゆっくりするか・・。」

足りなくなったものを買い足す必要もあるため

目に留まった宿屋の暖簾をくぐった。

ギ「邪魔するよ。
 部屋は空いてるかい?」

暖簾をくぐれば店の男が素早く対応した

男「へい!もちろんでございますっ!
 ささ、こちらへどうぞ!」

男は機敏に動き、ささっと私たちの背中を押して

お店の奥へと案内した。

男「さ!こちらでございます!」

男に案内された部屋は広々とした一室だったが

一人にしては広すぎないだろうかと首を傾げた。

ギ「あー・・念のため言っとくが、
 一人一部屋頼みたいんだが?」

ギンコは気まずそうにそう男に告げれば

男は首をかしげて意味深に笑みを深めた

男「旦那〜、冗談はこまりまっせぇ?
 ここはそういう宿って、おわかりでしょうに・・!」

ギ「・・まさか・・。」

男「ここは出合茶屋。
 旦那さんも面白い人だねぇ〜!
 さ、ゆっくりしてってくんな!」

男はまくし立てるようにそう告げれば

私たちを部屋に残し

早々と出ていった。

私は店の亭主が言った言葉の意味が分からず

首を傾げ、ギンコの服の裾を引っ張った

「ねぇギンコ・・出合茶屋ってなんですか?」

キョトンと首をかしげながらそう聞けば

ギンコはあんぐりと口を開け

呆けて見せた。

ギ「・・・そういう記憶も、ないのか・・。」

「さぁ・・?
 元々聞いたことがないのかもしれませんけど・・。」

歴史の授業とかちゃんと聞いてたし

知識はある方だと思ったけど

どの記憶の引き出しを探しても

"出合茶屋"という単語はヒットしなかった。

ギ「・・まぁなんだ・・。
 逢引き専門の宿ってところかね・・」

ギンコはなんとも気まずそうに頬をかいた。

要するに、現代で言う所の

ラブホに来てしまったようだ。

「・・なるほど。
 それはまぁ・・うん・・しょうがないですね・・。」

ここまで来て出るのも申し訳ないし

別段一緒の部屋だからと言って困りはしない。

今まで何度一緒に野宿をしてきたこともない。

ギ「お前、案外図太いな・・」

しょうがないと納得して

荷物を置きくつろぎ出す私を

ギンコはなんとも言えない表情で見つめた

「別に私気にしませんし。
 それに今までだって
 一緒に野宿したりしたじゃないですか。
 今更同じ部屋に泊まることに
 抵抗なんてありませんよ。」

ちゃっちゃと荷解きをする私を呆れたように見つめ

ギンコは深いため息をついて腹をくくったように

自身もどがっと腰を下ろした

ギ「それも、そうか・・」

ギンコは私の冷静さに戸惑いつつも

そうだよな。と納得して見せた。

逢引きで使う宿というだけで

その他は普通の宿と変わらない

普通に泊まる分にはなんの問題もなかった。

「夕飯も運んできてもらえるみたいだし
 よかったじゃないですか」

ギ「そうかもな・・・。」

モノは考えようだと笑って見せれば

ギンコもようやく笑みを返してくれた。

二人で荷物の整理をしながら

旅の疲れを癒すことにした。



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