蟲師

□伍ノ巻
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二日酔いで顔色最悪な化野先生に見送られながら

私たちは町を後にした。

最後までギンコは嫌味を言い続けられていたが

それは私の事を思ってだと

ギンコを終始なだめ続けるのだった。

ギ「化野の野郎・・最後までうるさかったな。」

「一人娘を他所にやる気持ちって
 そういう物なのかもしれませんねぇ〜」

苦笑いを浮かべながら

ギンコをなだめる。

深い深い森に分け入り

永い長い旅路を歩く。

木々を抜けた先に

ぽっかりと空いた大きな洞窟が

我々の前に現れた。

「・・・とても、異様な洞窟ですね。」

ギ「甘い・・・匂い・・。」

その洞窟からは花の様な

とても香しい香りが漂っていた。

光酒の匂いに似ているが

どこか違う。

けれどその香りに、どこか懐かしさを覚えた。

「・・・知ってる・・。
 この洞窟・・、私、知ってます・・。」

その洞窟に近づけば近づくほど

記憶が鮮明によみがえる。

こちらに来た時に潜り抜けた洞窟に見えた。

ギ「おい、どうしたアリカ」

「・・呼んでる。」

私の様子の変化に気づいたギンコが

私を呼び止めるが

そんな言葉は右から左へとすり抜け

私の足はどんどん洞窟へと向かっていく。

「・・私を、呼ぶのは、誰・・・?」

吸い寄せられるように洞窟へと足を踏み入れる

ギ「おい待てアリカ・・!!」

「ギンコ・・」

洞窟へと半分入ってピタリと足を止めた

後ろから聞こえるギンコの叫びが耳に響き

そっと後ろを振り返れば

そこにはただの石壁だけが、立ちふさがっていた

「・・・え?」

音も光も届かない

真っ暗な闇だけが

私を包み込んだ。




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