蟲師

□陸ノ巻
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ジリジリと焼けつくような日差しが

旅人たちに降り注ぐ

「あ・・・暑い・・・」

ギ「こりゃ、堪えるな・・」

ギンコは頭にタオルを被せ

私はいつものベレー帽を被り

なんとか日除け対策をしているが

暑いものは暑かった。

「ギンコ、そろそろ水の補給をしておかないと
 まずいかもしれません・・。」

この暑さでいつも以上に水分を欲する

二人分の水筒は空っぽ寸前だった。

ギ「もう少し行けば、確か小川があったはずだ。
 そこで汲むか」

「それがいいですね・・。」

参道から少しそれて山の中へと分け入る。

しばらく歩けば、大きな水音が聞こえてきた。

「ギンコ・・想わぬ発見でしたね・・」

ギ「こりゃ、絶景だな・・」

眼前に広がるは巨大な滝だった。

滝の周りには湖が広がり

とても幻想的な空間を作り上げていた。

ギ「ここいらで休憩とするか」

「賛成です・・!」

水辺はとても涼しく

今までの熱さが嘘の様にひんやりとした風が

全身を包み込んだ。

空っぽになった竹筒に水を補給し

冷たい池に手をくぐらせた

「冷たくてきもち〜・・」

夏場のプールが気持ちいように

夏場の湖もいいものだ。

ギ「なんなら入るか?
 その辺までなら浅瀬で大丈夫だろう。」

ギンコは木の幹に腰を下ろし

蟲煙草に火を付けながら

好きに過ごせばいいと言ってくれた

「着替えもないし・・足だけ・・」

流石にギンコの前で裸で泳ぐわけにもいかず

靴を脱ぎ、袴をたくし上げて湖に足を浸けた

「っ・・冷たくて、きもちぃ〜・・」

まるで足湯に入るが如く

その冷たさに酔いしれた

ギ「そりゃ、良かったな」

湖の畔でギンコはのんびりと蟲煙草を吹かし

そんな彼に見守られるようにして

私は池の中を歩き回った

「あ、魚・・」

小さな魚が沢山いて

私の周りを泳いでいた。

それがなんとも可愛らしく思えて

魚たちと一緒にくるくると回って見せた

ギ「おいアリカ。
 浅瀬だからってあんまりはしゃぐなよー」

「はーい!」

ギンコに軽く手を振りそう返事をすれば

何か大きなものが足にまとわりついた気がした

「な、なに・・っ・・!!」

慌てて足元を見れば

とても大きな影が私の足の間を

すり抜けるところだった

「キャッ・・・!!!」

ぬるっとした感触が足に触れ

思わず悲鳴を上げればバランスを崩し

そのまま湖の中で尻餅をついた

ギ「ぉい!どうした・・!」

急に悲鳴を上げた私に驚き

ギンコは慌てて湖の中の私の所まで

駆け寄ってきた

「な、何かが、足に・・っ!!」

ギ「いったい何が・・」

びしょびしょになった私を引き上げながら

足元を注意深く観察すれば

少し離れたところを優雅に泳ぐ

大ナマズが目に留まった。

ギ「・・どうやらヌシ殿に、
 気に入られたみたいだな。」

「ぬ、ヌシ・・・?」

ギンコに肩を抱かれ、彼が指さす方向を見れば

私の目でもその影を捉えることが出来た。

さっきはパニックで良く見えていなかったが

よくよく見れば、その大ナマズには

苔がみっしりとついていた。

それは、何よりのヌシの証拠だった。

ギ「たく、何事かと思ったぜ」

「ご、ごめんなさい・・。
 あんなにおっきいモノが
 足の間を通り抜けたから、
 ついびっくりしちゃって・・」

苦笑いを浮かべながらギンコを見やれば

しょうがない奴だなと、彼もあきれた笑みを浮かべた

ギ「びしょびしょだな」

「やっちゃいました・・・;;」

濡れて頬に張り付いた髪の毛を

ギンコはそっと払いのけ、そう指摘した

ギンコは足元だけだが

私はもう全身ずぶ濡れだった

ギ「とりあえず出るぞ。
 この天気ならすぐに乾くさ」

「はい・・。」

ギンコに手を引かれながら

ゆっくりと湖から上がった



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