蟲師

□陸ノ巻
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少年はなんとか一命をとりとめた。

体は時と共に回復するだろうが

心の回復は

一体いつになるか・・

誰にもわからなかった。

「・・レキくんは、貴方を守ったんですよ。」

女「・・・えぇ。」

女は横たわる息子を見下ろしながら

力なく返事をするばかり

「・・それでも・・・まだ?」

女「・・・・わからないわ・・・。」

女の瞳は薄く陰り

なにものも映していないようだった。

己の息子すらも。

ギ「ん・・?」

ギンコは少年のヘソから抜け出る

招雷子に視線を向けた

それはくるくるとうねりながら

遥か空の高みへと 昇って行った。

「・・・あれが、最後の食事ったんですね。」

ギ「みたいだな・・・。」




 ・・・・―――――

     ・・・――――


  

 その後

息子は親せきの家に

預けられる事になったという。

この親子には

それが生きる道なのかもしれない。

「・・ギンコ。
 今回のお仕事はとても後味が悪かったです」

ギ「ま・・いつもいい終わりを迎えるとは
 限らないからな・・。」

今回の人の関りはとても冷たく

心をいたぶり凍り付かせるようだった。

なんとも言えない寂しさが心に巣くい

それを癒すかのように

ギンコにべったりとへばりついた。

「私ももし子供が出来たら
 ちゃんと愛せるか、不安になりました・・・」

ギ「お前なら大丈夫だよ・・。
 きっと、ちゃんと
 愛してやれるさ・・。」

肩を寄せ、ギンコの隣で彼に体を預けていれば

そっとその肩を抱き寄せ

優しく肩を撫でた。

「・・・そうだと いいですけどね・・。」

ギ「お前は優しいからな・・。
 優しすぎるのも・・時には辛いことかもしれんが
 大丈夫だ・・。
 俺が、側にいるだろう?」

ふっと蟲煙草を吹かせながら

空を見つつそう呟いた。

ギンコと私の頭上には

満天の星空が、広がっていた。

「・・はい・・。そう、ですね・・。
 私には、貴方がいる・・。
 それだけで、十分・・・」

一緒に夜空に輝く星を見ながら

より一層身を寄せ合うのだった。



→漆ノ巻


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