蟲師

□捌ノ巻
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枯れ木を潜り

少しまだ寒い

木枯らしに身をすくめるようにして

肩を震わせながら、落ち葉を踏みしめ歩く。

そんな落ち葉を踏みしめる音と共に

囁くように

小さく低い

音が聞こえる。

「・・・ギンコ。」

ギ「ん・・・。そろそろか。」

その音はギンコにも聞こえるらしく

二人で高い高い空を見上げた。

その音は

じき いっせいに

春の蟲が目を覚ます音。

その音は

山々のヌシ達が

目覚めの日取りを

相談する声。

ギ「・・・っと・・。」

ギンコは地面に耳を押し当て

その声に耳を澄ませる。

「どうですか?」

ギ「・・・。参ったな・・。」

ギンコは渋い顔をして体を起こした

ギ「啓蟄までにゃ、この光脈筋を抜けたかったが
 思いのほか今年は早そうだ・・。」

「それは、参りましたね・・。」

啓蟄後の蟲は

腹を減らしていて厄介なものだ。

こう蟲を寄せる体質だとなおの事・・。

だが、ここで急いで出るより

ここに数日籠り、やり過ごした方が

懸命だと考えることにした。

ギ「とりあえず、数日籠るか・・。
 化野に呼ばれてるが・・しかたあるまい。」

「それがいいかもしれませんね・・。
 化野先生なら数日くらいなら待ってくれますよ。」

どうせ彼の事だ

良い土産でもよこせと言った内容なのだろう。

彼には悪いが、二人で数日

山籠もりすることが決定した。



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