貰い物小説
□咲き誇る梅の花の下で
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毎年、真選組隊士総出で花見をするあの公園がテレビに映し出されたのは、先週のこと。
まだ1月も半ばだと言うのに、この江戸の町は4月上旬並の温かさまで気温が上がり、早くも梅の花が咲き始めていると言う。
さして興味も抱かずに見ていたニュースだが、神楽と初めてケンカしたのがあの場所なのだ、と思うと、何だかとてつもなく温かい気持ちになった。
それこそ、春の麗らかな気候のような。
毎年恒例の花見ですら、のんびり酒を呑める良い機会だなぁと、その程度にしか思っていない俺だから、梅の花が開花しようがしなかろうが、どうだって良い。
そもそも自分は梅の花と桃の花の見分けすらつかない人間なのだ。
そんな俺だから、梅の花が咲いたと知ったって、見たい、なんて気持ちは小指の爪ほども無かった。
そんな考えを覆したのは、隣で大福を頬張っていた可愛い彼女、神楽の一言。
「ネ、梅の花が咲いてるんだって」
「何、お前もしかして見たいの?」
「でも無理ヨ、どうせ銀ちゃんは連れてってくれないネ。何たって万事屋は常に赤字経営だからナ」
残念ヨ、と呟く寂しげな横顔に、どうしてそんなに梅の花を見たいのか、と聞いてみれば。
『咲き誇る梅の花の下で、好きな人とお弁当を食べるなんて、最高に幸せでしょ?』と彼女は笑う。
そんな可愛らしい事を言われてしまっては、こっちまで行きたくなってしまうではないか。
いや、例えどんなに興味のない事だろうと、神楽がそうしたいと言ったら、断れないのが俺だが。
仕方ない、惚れた弱みだと、神楽の耳元に唇を寄せて、そっと囁いた。
「次の日曜日、空けとけよ?」
「……うんっ!私、お弁当作り頑張るアル!」
「期待しないでおきまさァ」
「何ヨっ!」
「嘘でィ」
眉間にシワを寄せる神楽の頬に、キスを一つ降らせて、「弁当、楽しみにしてるから」と言ってやった。
とても、とても愛おしく感じた。真っ赤になりながら俯く神楽が。