貰い物小説

□咲き誇る梅の花の下で
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神楽の髪の毛によく似た髪色の長髪を三つ編みにして束ねた男は、機嫌良さそうにニコニコと笑っている。

それに対し神楽は、やや困ったような顔をしつつも、どことなく嬉しげな顔だ。

その態度が気に入らなくて、大股で二人に近づいた。

「誰ですかィ?アンタ」

「俺?俺は神楽の兄ちゃんだけど?」

「兄、ちゃん……?」

ああ、コイツか。神楽が前に話してた、神威だかっていうのは。

それにしたって、どうしてこんな所に居るのだろう?と、疑問に思った事を問い質してみれば。

「散歩してたら神楽の事見つけちゃってさ」と飄々とした態度で神威は答える。

せっかく二人きりだったのに……、と苛つきつつも、神楽の兄貴だと知っては、蔑ろにする訳にもいかずに。

仕方なく、俺はシートの隅で二人のやり取りを眺めていた。

「神楽、料理上手になったんじゃない?」

「お前、私の手料理一度も食べた事ないダロ!」

そんな会話を交わしながらにこやかに笑う二人。神楽の兄貴が俺より先に神楽の作った弁当を食べた事が気に入らなくて、俺は益々不機嫌になる。

おまけに、神楽の事なら何でも知っている、とでも言いたげな口ぶりで話すのも、気に入らない。

「昔作ってくれたでしょ?俺が風邪引いた時」

なんだよ、粥でも作って貰ったのかよ。それなら俺だって……と言いたいところだが、残念な事に神楽に粥を作ってもらった事はない。

悔しくて、腹立たしくて。何も言えずにいると。

「ま、作ってくれたって言っても、卵かけご飯だけどネ」

拍子抜けしてしまった。卵かけご飯一つで喜んでいるなんて、馬鹿みてぇ。

「ハッ、俺はコイツの作ったチャーハン食った事あるんで」

「そう?じゃ、俺は神楽の作ったタコさんウインナー食べようかな」

そこまでは、まだ我慢出来たんだ。なのに兄貴が調子に乗って、「神楽、あーんして?」なんて言うから……。

「神楽ァ、帰るぜィ」

「どうしてさ?まだお弁当、こんなに残っているのに?何、もしかしてキミ、妬いてるとか?」

「いーえ、違いまさァ。帰って、兄妹では出来ない行為をするんでィ」

睨み合って火花を散らす俺たちを見ていた神楽は、はぁと溜め息をついてぽつり。

「二人共、ケンカやめないなら、私一人で帰るからナ」

「……ごめんなさい」

その日初めて、俺と兄貴の声が重なった。



「そういえばさ、」

不意に神威が口を開いた。かと思ったら突然、「昔はよく二人で風呂に入ったもんだよ」なんて抜かしやがる。

いくら昔の事だからって、兄貴だからって、許せないのは……、俺の心が狭いのか?

どうしようもなく悔しくて、何か神威がビックリするような彼氏らしい台詞の一つも言ってやろうと、悩んで、考えて……。

「風呂に一緒に入ってたなんて流石ですねィ、でもね、おにーさん」

厭味ったらしく笑って、神威に突き付けるように言ってやった。

「神楽は耳が弱い事知ってやすか?」って。

瞬時にして赤く染まる神楽の頬。そんな顔も可愛いな、なんて思いながら神威の方を見ると、相変わらずニコニコ笑ったままだった。

……変なヤツ。

もう良いや、兄貴の事なんて無視して、俺も神楽にタコさんウインナーを食べさせてもらおう。

「あーん」なんて生温いやり方じゃなく、口移しで。


ひらひらと神楽の瞼に一枚の梅の花びらが舞い落ちる。

先に手を伸ばしたのは、俺か、それとも――



花びらのように柔らかい笑みを浮かべる彼女が大好きだ。

……兄貴は大嫌いだけどな。
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