◇Crescent Quest◇

□第五章〜月に叢雲、君に影〜
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 栗須枝里は、焦っていた。

 白衣の天使から本職の女盗賊に戻った彼女は、任務を遂行するため、夕陽に向かってひたすらに走る。


「あぁーっ!! 待ちなさいよーっ!」


 水平線に沈み行く太陽──正確にはその夕陽をバックに出港する定期船に向かって、枝里は力の限り叫んだ。

 次の便は三日後。あれに乗らなくては任務が遂行できそうにない。


「お願いだから待ってよー! 山田さんに叱られるじゃないのーっ!」


 だが、そんな個人的な理由で当然船が待ってくれるはずもなく。


「……はあぁ。山田さん、イケメンだから嫌われたくなかったんだけどなぁ。
 でも、怒ったら怖そう……あぁーどうしよう!」


 既にシルエットと化した船を眺めていた枝里だが、怒り心頭の上司を思い浮かべ、頭を抱えた。





 第五章〜月に叢雲、君に影〜





「……はぁ」


 夜の海を眺めながら、陽南は一人、溜め息を吐いた。

 現在、陽南達はミナミン地方に向かっているが、その前に夕騎士団本部へと寄る予定である。
 しかしいずれにせよ、キタキタ地方からはかなりの距離があるため、今は澪の兄が率いる海賊船に乗せてもらっているのだ。


「おや、レディ? こんな遅くにどうしたんだ?」

「……航さん」


 そこへ海賊団マリンホーンのキャプテン、東海林航が颯爽と歩いてきた。


「ノンノン。オイラのことはキャプテンと呼びな! で、夜風に当たりながら悩み事かい?」


 逞しい体躯が隣に並ぶが、陽南は彼に視線を合わせることなく、口を開いた。






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