文章

□“好き”を貰えばいい
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「…はよー」

『おはよう』



俺と彼女が交わす言葉はこれぐらいだ。あとは帰りにさよならの挨拶をするのと、たまにぶつかったり落とした物を拾ったりなんかした時にごめんとかありがとうとかを言うくらい

いやそれって会話とは言わんじゃろ

仁王が口を挟む。うっせーなお互いに話しかけ合ってんだから立派な会話だろ。同じクラスとは言え席も遠いしクラス一緒になったの初めてだし男と女だし共通の会話とか無いしそもそも友達って呼べるほどの仲でもないし。つーかただの同級生だし。せめて共通の友達でも居たらソイツの話題とかで盛り上がれるんだけどな



「なん、お前さんアイツが好きなんか」

「は?なんでンな話になるんだよ」

「普通なるじゃろ」

「なんねーよ。ンなこと一言も言ってねぇし」



なんだよこの白髪。いきなりわけのわからんこと言いやがって。好き?俺が?アイツを?いやいやいや



「それはないだろい」

「なんでじゃ」

「だってアイツ、俺になんもくれたことねーもん」

「…は、」



ガムはもちろん、チョコやクッキー、スナック菓子だけじゃなくて手作りのケーキとか。家庭科で調理実習があった日なんて他のクラスの女子までわざわざ俺に渡しに来てくれるんだぜ?別に自惚れるわけじゃねーけど、でもきっとそういうことなんだろうなって思うじゃん。なのにアイツときたら飴玉ひとつもくれたことがない

そんなやつを俺が好きになんかなるわけねーっつの。なぜか目が点な仁王に向かって俺はまくしたてるように言った。なに、なんでそんなにポカン顔してんだよ。俺なにか間違ったこと言った?…そういや一昨日の調理実習で作ったカップケーキ、アイツは誰かに渡したんだろうか

クラスの男子に渡したような気配はなかったけれど他のクラスのやつに渡したか渡してないかまではわからない。それとも自分で食ったかな…うん、きっと自分で食っただろうな。だって俺になんもくれたことない程の食い意地はったヤツが誰かに渡すはずねーだろ



「食い意地はってるとか丸井に言われたくないのう」

「うっせーよ。どういう意味だこら」

「…俺は他のクラスのヤツに渡してる可能性は捨てきれないと思うナリ」

「は…?」



なにこいつ。なに言ってんの。髪だけじゃなくて頭ん中も老化したのかよ。だってアイツが多分いちばん仲良い女友達は同じクラスだから一緒に調理実習したわけでそれはつまりわざわざ友達にあげる必要が無ぇってことだろ



「なんで女って決め付けとるんじゃ、男にあげとるかもしれんし」

「…いや、アイツって男友達がいっぱい居るようなタイプじゃなくね」

「友達とは言っとらん」

「……じゃあなんだよ」



友達じゃなかったらなんだよ。なんなんだよ。友達でもねー他のクラスの男になんでわざわざ渡すんだよ。おかしいだろそれ



「彼氏ならおかしくない」



…は?彼氏?誰の?アイツの?アイツ彼氏いんの?……いやいや、それは無ぇってば。だってアイツたいがいは女友達としか居ないもん。教室に居ても男子となんか用事がなければ話さねーし、良くて隣の席の男子とちょっと長く話してるかなくらいだし、昼は教室で女友達と弁当食ってるし、移動教室ん時も女友達と移動してるし、帰る時だって女友達と帰ってるところしか見たことねーし

そんな四六時中、同性としかつるんでねーアイツが彼氏なんているわけない。つーかどんなヤツがアイツの隣に並ぶんだよ。ありえねーありえねーマジありえんあー、なんかムカついてきた。…なんなんだいったい。うん、もういい。アイツに彼氏なんか絶対いねーよ。間違いねーから



「やっぱりそれはカンペキ好いとうよ」

「だからなんでそうなんだよ。お前さっきから話をソッチに持って行こうとしすぎな」

「いやいや、普通は好きでもない相手をそこまでよく見ないぜよ。しかもそれはヤキモチっつーもんじゃ」

「いやないから。ありえねーから。俺がなんでアイツにヤキモチなんか。しかも別に見たくて見てるわけじゃねーし。たまたま視界に入っただけだし」

「…じゃあお前さん佐々木がいつも誰とどうしとるか知ってるか?」

「は?ダレ佐々木」

「……お前さんの隣の席の女子じゃ…」

「知らねーよ」

「……」



そういや隣の席の女子は佐々木だったけどなんで俺が佐々木のことをいちいち知ってなきゃなんねーの。どうでもいいだろい。興味ねーし



「………なんかいい加減にイライラしてきたのう」

「俺も」

「さっさと認めんしゃい」

「だからしつけーな、ンなんじゃねーってば」

「……ほう、まだ言うか」

「言うよ」

「…なら、俺アイツが好きじゃ。協力しろ」

「………はい?」



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