文章

□謎の女とヴァリアー
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※ミルフィオーレ戦設定
※スクアーロ視点






俺達の目をくぐり抜けいったい何処から沸いて出たのか、前触れも気配も無く現れた女はすました顔をして俺達の前に居る。歳は俺達より十近く上だろうか。けれど時折見せるあどけない笑みはそれを幾分か幼く見せた

当然だが訝しみ当人を責め立てる俺達をよそに、意外にもあのザンザスが女をこの場に留めることを許した。ザンザスは女を暫くのあいだ鋭く眺めた後、眼を伏せ何事も無かったように普段と同じく酒を煽りはじめる。ぎょっとする俺達など全く見えていないのだろう

自分以外の存在を認めようとしないこの男がなぜ女を置くことにしたのか真意を訊ける者など居ないし訊いたところで答える奴ではない

鶴の一声とでも言うべきか、渋りながらも黙る俺達を見て女は眉を片方下げて困ったような、微笑ましいものを見たかのような顔をして笑う。こうなるとわかってた、と云わんばかりの態度にやはり怪訝な気持ちや警戒心はあれど、不思議と嫌悪だけは抱かなかった

何をするでもなく、ただ空を見上げたりルッスーリアが育てている庭の花を眺めたりするだけの日々を送る女。屋敷に居ようが居まいがさしたる変化はもたらさない存在だったが、頑なに自身については明かそうとしなかった。名前さえもだ。反対に俺達の名はこちらが教えなくとも知っていて、それどころか細かな性格をも理解しているところはやはり恐ろしくも感じた。レヴィの奴はスパイだと言い張り女を殺すべきだと主張する。僅かな危険因子も潰すべきだ、俺も少なからずそう思うがザンザスがそれを許さない

部屋に籠もるばかりだった男が、女が現れてからというもの度々広間で酒を飲むようになった。牽制の意を含んだあからさまな態度にレヴィはもう何も言えないでいた

ザンザスから声をかけるなど有り得ない事だから気にはならないが、女からザンザスに声をかけたことがなかったのも些か気にかかる。女がザンザスに畏縮しているわけではないということは雰囲気から伝わる。なら何故、問いかけのひとつもしないのか。手こそ出さないものの、敵意を剥き出しにしているレヴィにすらごく自然に声をかける女が

――気味が悪いくらい違和感がないね

俺の疑念を知ってか知らずか、マーモンが言う。そう、そうなのだ。ザンザスと女、こいつらが揃う事がさも当然に感じる。ザンザスと女、こいつらに会話が無く視線を重ねなくともそれは、それが、在るべき姿に見えてしまう

云わなくても伝わっている

ふたりを表すのに一番納得のいく表現のように思えた

それから日が経ち、いつしか女自身は謎に包まれたままだが女の存在そのものに謎を感じることは無くなった。否、考察するだけ無駄に思えてきたのだ

こんなおかしな事もないだろう。俺達と女は、数えられる程しか共に過ごしていないし、ましてや女は素性の一切が知れない警戒すべき存在だ。疑って疑って疑い尽くしてもまだ足りないくらい不安要素で満ちている存在だ。そんな女に何故ザンザスは、俺達は、その存在を享受して此処に居場所を作っているのだろう






――多分、そろそろ帰ることになると思う

ある日、執務を終えたザンザスが広間にやって来たのを合図に女が言った。疲れを言い訳に疑うこと止め、女が此処に存在し続けることを受け入れつつある頃だった

ザンザスは何も言わない。何処へ。俺は尋ねたかったが女からは有無を云わせぬ空気が立ち込めていて、口をつぐんだ。まるで、訊くことがタブーのようだった



『突然押し掛けてごめんなさい、いろいろと有り難う楽しかったよ』



ぐるりと俺達を見ながら女は言う。にっこりと笑う女は、本当に此処に来てからの生活を楽しんでいたのだろう。何をするわけでもなく、俺達の視界の端で、のんびりと言う言葉がぴったり当てはまる毎日を過ごしていただけなのに



『此処に来たおかげで、帰ってからも凄く楽しくなりそう』



いや此処に来る前も勿論楽しかったんだけどね。続けて言う女は、帰ることを心底待ち望んでいる。それが何故か嬉しかった。嬉しい、とはまたおかしな感情を抱いたものだと心の中で嘲笑う。俺達は女が何処から来て何処へ帰り誰のもとへ戻るのか知りもしないのに

それなのに、帰った先で笑う女の姿をありありと想像出来た

最後に女に問いかけをしたのは、ザンザス以外では一番に女を受け入れていたベルフェゴールだった



「なあなあ、アンタって戻り先でも此処に居るみたいにダラダラしてんの?」

『たまにね。でも戻ってしばらくは暇が無さそうだなぁ』

「ふーん。忙しそうにしてるアンタって想像つかねーな」

『失礼な。やらなきゃいけない最低限の仕事はやってますー』

「それって最低限しかやってねーってことじゃん」

『大騒ぎしながらも進んで仕事を片付けてくれる同僚がいるからいいの』

「ししし、そおゆー使いやすいバカって何処にでも居んだな」

『ぶっ。…そうだね』

「こっち見てんじゃねぇぞてめぇらぁ!たたっ斬られてえかぁ!」



きっと嘘は無い。しかし当たらず触らず、上辺だけの会話。今はまだそれを不快には思わない

そう、今、は

根拠は無い、理由は無い、約束も無い。それでも自信がある。絶対に確実に揺らがない

俺達はまた、出逢う

これは勘というやつだ。だが今まで幾度も感じてきた勘のように不安定なものじゃない。確固たるものがある。もしかするとこれはザンザスや沢田綱吉が持つ超直感に似ているのかもしれない。ちらりとザンザスを見れば、やはり黙って酒を飲むだけだった。彼には自信しかないのだろう

――ザンザス、

此処へ現れて初めて、女がザンザスを呼んだ。ザンザスは呼んだ女へゆるりと視線をやる。一見すると面倒くさそうなその態度にも、女は満足気に笑った



『ザンザス、もしも“今の貴方”に“あたし”が必要になったその時は、お手柔らかに捉まえてね』

「知るか」



返答の予想がついていたのか女は一際嬉しそうに笑い、他には何も言わなかった。少しして、俺達全員におやすみと言ってあてがわれた部屋へと戻って行った

翌朝、姿を見せない女を気にしてルッスーリアが女の部屋を開けると、そこに女の姿は無かった。訪れた時と同じく、女は忽然と姿を消した






「あっ居たわ!居たわよ!ほらあそこ!」

「少し若いのは当然だし、どうやら間違いないようだね」

「ボスがお望みならば俺はかまわない」

「ししし、何言っちゃってんの?アイツを捉まえんのは俺だし。変態はすっこんでろよ」

「なんだと!?」



幻のような出来事から数年。俺達はザンザスに言い付けられ、総出で任務外に着手していた。名前も素性もわからない、あの頃の面影だけで捜すのはなかなか骨が折れた。なんせ姿にも異なりがあったんだ。眼下に見える女は、俺やザンザスと年端が変わらぬようだ

だが間違いない。間違えるはずもない



「う"お"ぉい!!てめぇらいつまでもべちゃくちゃ喋ってんじゃねぇ!今日でようやくクソボスの機嫌が直るんだぁ!ぜってぇしくじんなよぉ!!」

「君が一番心配だけどね」

「マーモンに同感〜」

「うむ」

「ンだとぉ!?アイツを見付けたのは俺だぞぉガキ共と変態は黙ってろぉ!!」

「ちょっとスクちゃん、ケンカはあとよ!ほら行っちゃうわよ!」

「…ちぃっ!覚えとけよぉ!」

「あっ忘れた」



カス共から女へと視線を戻す。いまだ憎まれ口を叩くベルフェゴールもその眼は女を捉えて離さない。風が止んだ。まだ何ひとつ俺達を知らない“今の女”に、俺達の口角は吊り上がるばかりだ



「行くぞぉ」



主不在のあの部屋も、今日まで何も変わってない
















追憶に住まう人



(おはようさん)(ひさしぶり)(初めましては要らねぇだろう)















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わかりにくい…!一応、ザンザス夢のつもりだったんだけどスクアーロ夢くさいなこれ…。ミルフィオーレ戦の時の十年バズーカのアレで十年前にやってきちゃった十年後ヴァリアーヒロイン。十年前のヴァリアーにはまだ出会って無かったってゆう、ね…



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