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□高杉晋助の欲しいもの
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松陽先生が殺された日、あんたは俺たちの前ではじめて泣いた

地面に膝を着けて両の手で顔を覆って、それでも指の隙間からはとめどなく涙が流れてはぽたぽたと落ちていた。俺達の中の誰ひとり、あんたの泣き顔なんて見たことがなかったからどうしていいのか分からず、俺達はあんたの傍で立ち尽くすだけだった。その様子を芝居でも観るように眺めるだけだった

なんで俺は、俺達は、松陽先生を守れなかった。悲しい?違ぇ、俺は悔しかった。なんで守れなかった。なんで何もできなかった。悔しくて身体が震えて、悔しくて声が出なくて、悔しくて泣いた

なんで俺は弱いんだ。なぁ、なんであんたは誰も責めない。なんであんたを泣かせたヤツらに何も言わないんだ。なんであんたから先生を奪ったヤツらを恨まないんだ。なんで俺達に謝るんだよ。なんであんたが謝るんだ

なぁ、なんであんたは自分が愛した男よりも俺達を守った?

俺達が弱かったからか?今じゃ俺達よりも小さいのに。今じゃ俺達のほうが力があるのに。出発の日、昔のように俺達の頭をそっと撫でたあんたの手は小さかった。昔は大きく感じて、まるで包まれているように錯覚して心を暖めたりもしたのに今では危うげで、包んでやらなきゃ、そう思うことで心を暖めた

なぁ、本当はあの日あんたは俺達を引き止めたかったんだろ?今なら分かる。笑っていたけれど、心はあの時のように泣いていたんだろ?あの頃の俺達は、俺達が絶対に勝ってあんたの下へ戻ると信じてた。戦うことが松陽先生へのはなむけになると信じてた。戦うことが俺達を守ってくれたあんたへの恩返しだと疑いもせず

なぁ、あんたは俺達の行く末がどうなるか分かってたんだろ?この国の行く末がどうなるか分かってたんだろ?それでも止めなかったのはきっと、俺達の気持ちが嬉しいとでも思ったんだろ?俺達から先生を奪ったのは自分だとでも思ったからなんだろ?

馬鹿みてぇだ。あんたも先生も、いつだって俺達のことばかり考えて自分達のことは気にもとめない。



─── 生きて


─── 幸せに


─── 笑っていて


─── 恨んでは駄目



そうやっていつもいつも俺達のことばかり。なぁ、あんたは本当は先生の後を追いたかったんじゃないのか?あんなに泣いて、切なくて、悲しくて、辛くて、苦しくて、痛かったはずなのに。なんでまた俺達に笑顔を向けることができるんだよ。なんで先生のいない世界で生きていけるんだよ

あんたは独りになっちまったじゃねぇかよ。あんたの隣にはいつだって先生が居たのに。今じゃ独りきりだ。どうしてそれでも生きていこうと思えるんだよ



─── みんなが居るよ



目を逸らさずキッパリとそう言って笑ったあんたを心底キレイだと思った。なぁ、風の噂で聞いたんだ。あんた今、江戸に居るんだってな。江戸にゃ銀時もヅラも居るからな。アイツら昔からあんたにべったりだったから今だってどうせあんたの傍に居るんだろ?

あんたが甘やかすから銀時はどうしようもねぇ腑抜けだし、ヅラは馬鹿だ。それでもあんたはそんな二人を見ては笑ってるんだろうな。ガキの頃あんたの隣を奪い合って喧嘩したこともあったけど、いまはアイツら二人で丁度良い

なぁ、知ってるか?俺はいま京に居るんだ。あんたがいちばん望まないことをやろうとしてる。あんたがいちばん悲しむことをやろうとしてる。あんたがいちばん苦しむことをやろうとしてる

そしたらさすがのあんたも俺には笑ってはくれねぇかもな。けれどもう、それでも構いやしねぇんだ。俺に笑いかける必要なんざ無ぇんだ。なぁ、あんたはいま昔のように毎日笑っているか?銀時やヅラが居りゃ毎日騒がしくて悲しみにふける時間も作れ無ぇだろうなぁ。他のことを考えてる暇なんざねぇだろうなぁ

だから俺に笑いかける必要なんて無え。代わりにあの日のように泣いてくれないか。そしたら俺はまたあんたを心底キレイだと思うだろう

なぁ、今あんたは、

あんたはさ















俺を想う日はありますか



(あの人の為だけに涙を流したように)(俺の為だけに涙を流して欲しいんだ)(そしたら世界が変わるのに)















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前サイトリメイク(^ω^)



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