文章
□弱ってる幸村精市
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もう来ないでくれないか
告げられた時の君の顔がいまでも瞼に焼き付いていて瞳を閉じるたびに俺の胸を締め付ける
こんな別れ方をする為に俺達は出逢ったのだろうか。こんな想いをする為に俺達は惹かれ合ったのだろうか。あんな顔をさせる為に俺は君に何度も好きだと囁いていたわけじゃないんだよ
好きで好きで仕方なかった。ずっとずっと一緒に居たいと思った。何年先も何十年先でも。ありがちな子供の恋愛ごっこだと言われてもかまわなくて、君となら夢にしない自信があったのは、君も同じ想いだと言って笑ってくれたからだ。嘘じゃない、確かにはっきりと俺達は未来を見た
だけど同時に未来なんていくらでも崩されて変えられてしまうということも知ってしまったね。なにもかもが真っ白でちっぽけなこの部屋は死の臭いがする。そんな場所でも君は笑っていてこの部屋で唯一、君だけは鮮やかな色に彩られていた
あぁ、なんて眩しいんだ
君の世界はどこまでも広がっている。君が色を残していくと世界の片隅に取り残されてような気持ちになる。君が笑うと泣き叫んで全てを壊してしまいたくなる。君を想うと眠るのが怖くて堪らなくなる
眠りについて、もしもこのまま目覚めることが出来なかったとしたら君の心は俺が何処か、誰にも届かないほど遠くまで連れ去ってしまうのだろうか
それでもいいかな、なんて
俺に涙を見せなくなった君には訊くことなんて出来なかった。いつも俺の知らない何処かで泣いていると知っていた。俺に見えない場所に悲しみを隠してるつもりで居るみたいだけれど、俺にはちゃんと見えていた
俺に笑っていてほしくて笑っていたことにだって気づいてた。そんな事も分からないような薄っぺらな想いで君の隣に居たんじゃない。きっと君が思うよりももっと沢山、俺は君を想ってる
だからさよならだ、なんて
ただの言い訳にしか聴こえないけれど。俺がもっと大人だったら君の笑顔を崩すなにか良い言葉が言えたのかな。強がらなくていいから、俺の代わりに泣いてよ。頭に浮かんでは声にはならず胸の奥底へと溶けていく
言ったら俺の前で泣いてくれたかな。けれど言えたところで、君が泣いたところで、辿り着く先が変わるとは思えなかった。俺のことなんて忘れて前を見て生きて欲しい。そんな綺麗事を口に出来るほど俺は強くはなくて
俺を胸に閉じ込めたまま生きて欲しい。そんな惨めな事を口に出来るほど俺は弱くもなかった。この部屋の白さのように何も無かったかのように君と過ごした時間を消すことはできない。君の世界の鮮やかさのように俺の居ない未来を生きる君を照らすことはできない
どうして俺は死ぬ
どうして君と同じだけの未来を生きれない。どうして君の隣に立てない。どうして君を置いていく。どうして君を連れていけない
どうして、
どうして、
どうして永遠とはこんなにも残酷なんだ
君の名を呼び微笑んで。君を抱きしめ微笑んで。君にキスして微笑んで。好きだと言って微笑んで。そうすると君はいっそう輝きを増す
だけどそれだけじゃ何時か君の中から俺は居なくなる。幸せは抱いたその瞬間に弾けて消えてしまうから。今日、君が笑えば明日はもっと笑ってほしくて。今日、君に触れれば明日はもっと触れていたくて。今日、君に好きだと言われたら明日は愛してると言ってほしくなる
俺が欲張りになるに比例して君の未来は削られていく。どこまでも続く君の未来が俺の為に陰ってく。俺だけのものであってほしいと思うのに、自分の幸せを見つけてほしいとも思う
だけどどちらも声になんて出せない。あぁ、だから俺は君から背を向けて逃げ出した。想いをそのままに逃げ出したんだ
忘れて、忘れないで
そのどちらも言えないまま、僕は君から逃げ出した
夢の泡沫
(愛と呼ぶには汚れすぎてて)(未練と呼ぶには美しすぎた)
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