文章
□人間嫌いの不知火匡
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風間ほどじゃねえけど俺も人間は嫌いだぜ
いつも見せる意地の悪い子供みたいな笑みではなくて、何かを諦めたような自嘲交じりの笑みを浮かべて言った不知火が手を延ばしてきたからあたしはその手を力一杯握りしめた。痛ェよと言うわりに微動だにしない手にも表情にも胸が締めつけられた。確かこれは、初めて身体を繋げた日の事
力の差は男女の差だけではなくて、人間と鬼の差でもある。不知火は鬼の中では人間に深く関わっているほうだ。風間達もだけど、不知火も不知火で一族を守る唯一のすべが人間の醜い争いに加担する以外に他ならないと判断したから。人間の庇護化にある以上、避けることの出来ない道だから
俺が不知火の一族を背負っていなければ、お前に逢うこともなかったかもな
頭領や族長以外の鬼は今でも人間とは極力関わりを持たないように生きてるらしい。でもこの男は好奇心旺盛で落ち着きがないし新しいもの好きだから、たとえ一族の長でなかったとしても人間との関わりは少なからず持っていたと思う。それを言えば不知火はそれもそうだと言って笑った。キラキラ光る銃を弄りながら、結局お前と逢ってたんだろうなとキラキラした笑顔で言った
だから人間は嫌いなんだ
今度は泣きそうな顔で言う。あの時よりももっと苦しそうな顔で言う。そうさせてるのはあたしだね。そう思わせてるのはあたしだね。あたしは鬼が嫌いじゃないよ、その言葉さえ今のあたしは口に出来ない
声の変わりにひゅうひゅうと音を立てる喉からせり上がり吐き出たのは真っ赤な血で、それを見た不知火が喋ろうとしてんじゃねえと怒鳴ってきた。そんなこと言われても、今喋ろうとしないでいつ喋ればいいの。今伝えないでいつ伝えられるっていうの
『…っ…しら……い…、』
「だから黙ってろって言ってんだろうが!」
『…っ、は…っ』
「待ってろ、すぐ医者ンとこに連れてってやる!」
『…しら、ぬい……』
「チッ…!ああ分かった、聞こえてる!だからもう…!!」
感覚の無くなりつつある手を這うように動かして不知火へ延ばすと乱暴に手を握られた。少し痛いなと思いながら、以前これと似たようなことをした気がするなぁと頭の隅で考える。不知火の手は火傷するかと思うほど熱い
『…手……あつ…』
「ハッ…そりゃあテメェの手、が、冷たすぎんだよ馬鹿野郎…!」
『……そ、か……ね、しら…い…あの、ね……っ…』
「だからもう黙れ!」
『…聞いて……あた…し、』
「黙れ!」
『……しら、ぬい、の、こと…』
「黙れって!」
『………好き……だ、よ』
「うるせぇ!黙れ黙れっ!」
『…っ……人間、として………鬼…の……不知火………が、』
「…っ!!……くっそ…!……!」
あたしは人間だ。不知火がどれだけ苦しげな顔をしようと悲しい思いをしようと、こればかりはどうにも出来ない。どうして不知火は男であたしは女なんだろう。どうして不知火は鬼であたしは人間なんだろう
あたしだって不知火と同じように何十回何百回と考えた。けれどそこに答えが見出せるはずもなく、最後に残るのは結局、あたしは不知火が好きだという根底の感情のみ。不知火が鬼であたしが人間で在ることを変えられないように、この感情も不変なのだ。実はそれがあたしの自慢で矜持だったりする
抱きしめられて骨が軋む音がしたけどそれさえあたしを満たすものでしかなくて、触れ合う部分が焼けるような錯覚に陥っても離れたくはない
「…あぁ…クソッ……ンでこんなにテメェを好きになっちまったんだかな…」
怒りたいような泣きたいような貶したいような、だけど大事だとでも言いたいような歪めた顔で笑う不知火に、それはお互い様だと言う代わりにもう一度好きだと言った
違えども引き寄せ合うは心でした
(あたしがあたしで在るから)(貴方が貴方で在るから)(こんなに好きでいられたと)(貴方も知っているのでしょう)
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なんでかはくおうきは暗い話になる(´;ω;`)
だけどそれがたまらんと思います。だってみんな切ない話が似合うんだもの!←
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