文章2

□桜田ネネと酢乙女あいの友情
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※not夢
※成長
※あいちゃん視点





「ひさしぶりー」

「お久しぶりです」

「話したいこといっぱいなんだけど、ひとまずどこかに入ろう」

「そうですわね、あそこなんていかがかしら」

「うん、行こう」

「私も話たいことがたくさんありますの」

ひと月ぶりに会うネネちゃんと私は再会して早々に、目についたカフェに入る。大学生になった私達はヒマがなくても連絡を取り合い会っている。小中高に大学、全部別々の学校に通った私達の繋がりと言えば、幼稚園のときのほんの僅かな時間だけ。しかもあの頃なんてろくに仲良くもなかったのに

「今度ね、風間くんに大学の友だち紹介してもらう予定なの」

「あら?ちょっと前にメールで仰っていた同じ学部の方はどうなさったの?」

「あああの人?それがチョームカツクの!ネネ以外の女の子とも連絡取りまくってて、その中から一番自分を好きになってくれた子と付き合おうとしてたのよ!?サイッテーよね!なあんでネネが他の子と比べられて、しかも上から目線で選考されなきゃならないのよ!あったまきて引っ叩いてやったわ!」

「…ネネちゃんの気持ちはよくわかりますけど、そんな事してしまったら周りから非難を浴びてしまいますわよ」

「それも上等ってかんじだったんだけど、以外と同じように腹立ててた子も居て、今まで関わりなかったんだけどコレきっかけで仲良くなっちゃったの」

「あらまあ、それはネネちゃんらしいですわね」

息巻いて話すネネちゃんにクスリと笑みを零しながら、彼女は昔からこうだったと思い耽る

いま、私達がふたりこうして向い合っていられるのは、私がしん様に叶わぬ初恋を捧げたからなのでしょう

幼稚園のときの恋を、私は小学生になっても中学生になっても変わらず抱いていた。けれどもそれが周囲の女の子達とは違う形であったことに、愚かな私は中学生になるまで気づきもしなかった。気づきもしなかった、と言っても、それすら実際は“気づかされた”が正しい。小学生の時とは違い中学生になると周囲の恋の話は具体性を帯びていて、恋人と何処へ行った何をしたと、ただ想うだけを恋とは呼ばなくなっていた

ある日、クラスメイトが私に言った。「あい、それは恋ではないのよ」と。私はしん様を想うだけで満たされた。何処かへ遊びに行けたならそれはとても嬉しいことだったけど、しん様と居られるのならふたりきりでなくてもよかったのだ。手を繋ぎたい抱きしめられたいキスをしたい、叶うのならばその先だって。ふたりだけでずっとずっと居られたら。本物の恋とはそういうものなのだとクラスメイトは言った

私はしん様を想うだけで満たされた。しん様が笑っているのなら、笑わせる役目は私じゃなくてもよかった。手を繋ぎたいと思ったことはあったし、実際に繋いだこともある。けれどそれは幼い頃のことで、そこにクラスメイトが言うような感情が伴っていたかは思い出せない。でも嬉しかったのは覚えてる。それでも私はしん様とキスをする夢を見たことがなかった

ふたりきりえいえんに。しん様のことはとても好きだけど、しん様に寄り添うのはきっと私ではないことに心の片隅では理解していた私は、しん様に恋をしていなかったのでしょうか?

それでは私のこの気持ちはなんなのか。しん様を好きだと何度も何度も口にした私はなんだったのか。どうなもならないくらい辛くて苦しくて、泣きじゃくりながら向かった先はネネちゃんの家だった。小学校も中学校も別々で、とっくに疎遠気味になっていたのに、ただただ悲しくて何も考えられないでいた私は無意識にネネちゃんを選んでいた

あの日が無ければ、私たちは未だにいがみ合っていたでしょうね。いいえ、それどころかお互い顔を合わすことなく別々の人生を歩んでいたでしょう

「それは恋よ。バカみたく何年も一人の人のことで頭がいっぱいでいることが恋じゃないのなら、私には何が恋だかわからないわね」

「あいちゃんのほとんどの事をクラスメイトより知らないけれど、しんちゃんを好きだと言ってるあいちゃんだけは私のほうが知ってるわ」

ぴしゃりと、少し冷たく言い放ったこの言葉を言ったのがネネちゃんだったから価値があったのかもしれない。他の誰かがくれる慰めではダメだったのかもしれない。しん様を見ていた私を見てくれていたネネちゃんだから意味があった。認めてほしかったの。無かったことになんて、してほしくなかったの

ええそうよ、私、しん様に恋をしていたわ。ずっとずうっと、何年も。楽しい時うれしい時悲しい時、いつだって真っ先に浮かぶのはしん様だったの。溢れて声に出してしまうくらい、好きだったの。こんなに好きだったの。恋を、していたの

大好きだったわ、ときめいていたわ。キスする夢を見なくても、嘘ではないの。ああけれど。しん様には幸せになってほしくって、私と幸せなってほしいとは言えなかった。 泣いて泣いて、ひたすら泣きながらしん様が好きだと言う私の頭を撫でながらネネちゃんは言う

「ねえ、ネネはこんなにも誰かを好きになったこと、まだ無いわ。いつかなれたら、その人と一緒に幸せになりたいわ。あいちゃんもいつか必ず、一緒に幸せになれる人にもう一度恋する日がくるわよ」

小さく頷いた私はこの日、しん様への片想いに終わりを見つけることができた

初めての恋は、私にとびっきりの思い出をたくさんくれたけど、実の結ばない種だった。クラスメイトの話す恋とは違っても、私の恋は真実でしたの。それを知ってくれてる人が居たことがどんなに嬉しかったか。ネネちゃんはどこまでわかってくださっているのでしょう

「ふふ」

「?なあに?」

「…ええ。私、しん様に恋をしていましたわ。それを思い出しました」

「ええ?いきなりどうしたのよ?」

「ふと思ったんですの。あの日のことが無ければ私達はいまこうしていないだろうって」

「ああ、まあ、そうかもしれないわね」

「そう考えると、つくづくしん様を好きになってよかったと思いますわ」

「うーん…?そう、かしらねぇ…」

「この前食事に誘ってくださったあの方よりも、やっぱりしん様のほうが素敵ですもの!」

「私はしんちゃんをそういった対象として見たことないからわからない……てゆーか!そうよ、それ、その話聞きたかったのよ!なあに?ダメだったの?」

「女性をエスコートするのに慣れていらっしゃらないみたいで…お話も弾みませんでしたわ。良い人でしたけど」

「あいちゃん理想高いしね」

「あら、ネネちゃんには負けますわ」

あれから今日まで、私もネネちゃんも何度か恋をしてその度に報告し合って一喜一憂してきた。楽しいこともいっぱいあったし、悲しくて泣いたこともあった。次に恋した人は永遠だって心に決めながら、恋を繰り返してる。でもそれはただ愚かなだけではないのだろう。本当に最後の最後の恋を見つけるのはたやすいことじゃないから。時間をかけて探せばいい。当然ですわ、だって私たちはまだ幼い

「私たちって男の人の理想が高いけど、好みが被ったことはないわよね」

「そりゃあ、尽くしたがりの私と尽くされたがりのネネちゃんじゃ好みが被るはずありませんもの」

「それどころか私たち自身も共通点がないのよね」

「そうですわね、けれど私は自信を持って言えますわ」

「なにを?」

「ネネちゃんは、私の親友ですの」

「…な、なによソレ、言ってて恥ずかしくない?」

「いいえ、本当のことですもの」

「…っ、まったく、アナタって人は昔っからそうね。羨ましいわ」

「ネネちゃんは如何です?」

「ね、ネネにまで言わせる気!?」

「たまには素直になることも必要ですわ」

「まるで私が素直じゃないみたいな言い方ね」

「そう言ってるんです」

「なによ、あいちゃんのくせに生意気ね」

「それは失礼致しました」

感情を素直に言葉にできる私を羨ましいとネネちゃんは言うけれど、携帯の待受は絶対に私と撮ったプリクラ画像だったり、誕生日メールは必ず一番にくれたりする、ひとつひとつの態度でいつも私たちが親友だと思わせてくれるネネちゃんが居るから、こうしていとも簡単に言葉にできるって気づいてないのでしょう

「あ、マサオ君から連絡きた。あと30分くらいでみんな集まれるって」

「でしたらそろそろ向かいましょうか」

「その前にプリクラ撮ってかない?そろそろ違う待受にしたいの」

「…ええ。ええ、もちろん賛成ですわ!」

でもこれで調度良いのでしょうね、私たちって




















女の子はシュガーとスパイスでできてるの



(恋するだけじゃ人生は色付かないの!)
















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ふたりともほんとカワイイ
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