ゼロの狭間
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朝、起床時間を知らせる無機質なアラーム音がけたたましく鳴る。いつもより頭に響く音に眉間に皺が寄る。何とか腕を伸ばしてアラーム代わりにしている古い携帯を手に取り停止ボタンを押す。いつもならこのまま寝続けたい気持ちにムチを打ち起き上がるのだが、今日は体が怠く起き上がる気力が起きない。でもこのまま二度寝してしまえば仕事に遅刻してしまう。みんなに迷惑掛けられないという思いで何とか体を起こすがどうも頭がスッキリしない。
あぁ、この感覚知ってる・・・熱、あるかも・・・。
休むなら休むで早めに連絡しなければ、それこそ迷惑を掛けてしまう。すぐに体温計を取り出し計ってみると38度7分。だいぶ高い。無理に出勤したら職場の人たちだけでなくお客にもうつしてしまう可能性があるため流石に休みの連絡を入れた方がいいと判断した。お店はまだ開店時間前で誰もいないだろうから、オーナーに連絡を入れた。今日は安室さんが本業の都合のため休みの予定だったが出勤できるようになったという連絡が昨日入っていたそうで、私の欠勤による負担はないから気にせず休んでねとのことだった。電話を終え、一番危惧していた部分が解消されたことによる安堵で緊張が解かれたためか、再び布団に横になると間もなく眠りについた。
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「えっ莉子さん、熱で今日はお休みなんですか!」
「えぇ、今朝オーナーの所に連絡があったそうです」
「そうなの・・・心配ね」
朝、開店前の仕込みの時間。元のシフトでは僕が本業の都合のため休みで莉子さんが出勤している予定だった。昨晩ベルモットの都合で本日の予定がなくなった。大きな事件が無い限り潜入捜査を優先としているため、公安の方には行かず、安室透でポアロに出勤することにした。結果的に体調不良で急遽欠勤することとなってしまった莉子さんの罪悪感が少しはなくなっただろうから良かった。
仕込みを終え、開店時間1分前となったのでドアにつけている小さな看板の表面をオープンにして、ポアロ開店だ。
ほどなくして、出勤前の常連のサラリーマンやOLが来店した。続いてたまに来る上階に住んでいる毛利先生と登校前の制服姿の蘭さんとコナン君が姿を見せた。
「いらっしゃいませ、おはようございます毛利先生、蘭さん、コナン君」
「おはようさん。・・・なんだ今日莉子ちゃんいないのか」
「はい。莉子さんに何かご用で?」
「用ではないけどよ。朝の目の保養をと思ってだなー」
「もう!お父さんったら!」
「あれ?でも昨日、僕が今日朝に来ること言ったら莉子さんじゃあまた明日ねって言ってたよ?」
「実は体調不良で本日はお休みなんですよ」
「そりゃあ心配だなぁ」
「ねぇ莉子さんて実家暮らしなの?」
「はっ!安室さん大変!!莉子ちゃん一人暮らしよ!食べるものとかお薬とか大丈夫かしら・・・」
「そうなんですか?確かにそれは心配ですね・・・」
「私たちはこれから学校だし・・・」
「俺が行ったところで大した看病できねぇだろうしなぁ」
「それじゃあ、梓さん。お昼のランチ時間のピークを終えたら莉子さんの看病に行っていただけませんか?」
「ええ。そうさせてもらうわ!」
「それなら安心だな!」
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重い目蓋を開けると、朝に一度起きたときは暗かった部屋の中は、外から入る光を遮っているカーテン越しに部屋が明るい。あれから三時間ほど寝ただろうか。ポアロが開店してから少し経った時間だ。そういえばコナン君にまた明日って言ったのに、私いないじゃん。まぁしょうがないか。さきほどより幾分か体調はマシになったが相変わらず体は怠い。何か栄養をとれるような物があっただろうかと思い、ふらついた足取りで冷蔵庫の前まで来た。中身を見るがお酒を飲むための炭酸水とたまに自炊する時に使用する調味料とご飯のお供のご飯ですよとチョコレートしか入っていない。うん、知ってた。冷凍スペースには買いためた冷凍パスタのみ。そんな重いもの食べられない。カップ麺もあるが、論外。てか女性の一人暮らしがこれってどうよ。終わってるよ。これから病院に行ってその帰りに栄養価がある物を買ってこようか。病院か・・・面倒だな。寝てたら直るよな、うん。もういいや、寝よう。
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毛利先生たちのテーブルへオーダーの品物を運んだら蘭さんに声を掛けられた。
「そういえば、あれから莉子さんとはどうなりましたか?」
「あれから?」
「スーパーで会った時からですよ!もう莉子さんには告白されたんですか?」
「え、何々なんの話?蘭ちゃん!」
「梓さん、実は前偶然に安室さんと莉子sさんが二人で買い出ししている所に会ったんですけど、お二人の雰囲気が何というか恋人同士みたいで私ったらデート中だと勘違いしちゃったんです」
「へーえ。そんなに仲睦まじく買い出しを?」
「そんな、楽しく談笑しながら買い物していただけなんですけどね」
「でも応援しますって言ったら安室さんありがとうと言っていたじゃないですか」
「え!安室さんそうだったんですか!」
「えっと・・・まぁ」 そう仕向けたが・・・
「なら、看病に行くのは私じゃなくて安室さんの方がいいじゃないですか!」
「そうですね!弱っているところに看病してもらったら一気に株が上がりますよ!」
「・・・でも女性としては体調優れないところに異性に看病されるのはあまり快くないのでは」
「「安室さんなら大丈夫です!」」
「ですが・・・」
「「大丈夫!!」」
「あ、はぁ・・・」
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