ゼロの狭間

□?
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今朝もいつも通りの携帯アラームで目を覚ます。日が昇る前のためカーテン越しに光は入らない。この時間はいつも暗く起きたらまず部屋の照明をつけるが、今日はいつも以上に暗い。そして外からは走行している車のタイヤが水をはじくような音が聞こえる。

「今日は雨か・・・」

雨は嫌いだ。いくら時間を掛けてヘアーセットをしても湿気で髪の毛が変なうねり方をしてしまう。今日は風も強そうだからポニテにでもしようか。そんなことを考えながらモソモソと布団から出てシャワーを浴びるため浴室へと入った。

簡単に一つ結びにしたためいつもより早く身支度を終えた。たまには早めに家を出よう。部屋の鍵を掛けたのを確認しエントランスへ。郵便受けを確認すると昨日帰宅した時にはなかった白い封筒が入っていた。手にとってみると少し質量があり分厚い。裏表を確認するも差出人やその住所も宛先もなにも書いていない真っ白な封筒だった。切手も貼られていないから、直接郵便受けに投函されたようだ。誰かが間違えて自分のところへ封筒を入れたのかもしれないとも思ったが、中身を見てみないと判断は難しい。時間もあるし今見てみようと、のり付けをされていなかった封を開けて中身を取り出すと数十枚の写真が出てきた。

「なに・・・これっ・・・」

寒気と憎悪と嫌悪感。手の震えが止まらない。
その写真には、ポアロで働いている時の私の姿が映っている写真だった。一枚一枚確認していくと退勤後の帰り道にスーパーで買い物している姿や、帰路を歩く後ろ姿。外だけだと思っていたが、まさか、家の中で過ごしている姿の写真まであった。リビングで寛いでいるところや、夕食時、携帯を操作している時、そして浴室前の脱衣所で服を脱いでいる時・・・裸の私の姿までも写ってる写真があった。

一気に血の気が引いて、頭が真っ白になった。体が動かない。今、この瞬間も見られているのだろうか。外に出たら待ち伏せなんてされていないだろうか。怖い。どれくらいそのまま立ち尽くしていただろう。マンションの住人がエレベーターから降りてくる音がして、正気に戻った。とりあえず今日は出勤して安室さんに相談しよう。確かシフトが入っていたはず。でもこの写真を外に持ち歩くのは気持ち悪い。隠しカメラが設置されているだろうあの部屋には戻りたくない。このまま封筒を郵便受けに戻して見なかったことにしよう。もし今監視でもされていたら封を開けてみたことはバレているかもしれないが。エレベーターから降りてきた住人の後ろについてエントランスを出よう。もし変な人に待ち伏せされていても叫べば通報とか何か助けてはくれるだろう。

真後ろを通った住人は私に軽く挨拶をして通り過ぎていった。私も挨拶を返して自然になるよう少し距離を保ちエントランスを出た。どうやら待ち伏せはされていなかったようで、辺りを見回したが特に変わった人はいないようだった。私が目視できる分にはだけど。

確か安室さん午後からのシフトだったはず。早く会って相談したい。彼が探偵業や黒の組織の潜入捜査に公安の仕事で忙しい身なのは百も承知で、自分のことなんかで貴重な時間割いてしまうことに気が引けるがそうは言っていられない。彼の本業は警察だから、一番信頼できる。

バックから折りたたみ傘を取り出しいつもの道を、すこし早歩きで進む。少しでも外にいたくない。あの封筒の中身を見てからずっと心臓がバクバクと脈打っている。息切れするのは早歩きの所為だけではないだろう。息をするのが苦しい。油断したら涙腺が緩み涙が出てしまいそうだ。でも泣くのは我慢。梓さんやオーナーに心配掛けたくない。相談するのは安室さんにだけのつもりだ。だから気取られないように、いつも通りに振る舞わなくては。傘の柄を握る手に力が入り手が真っ白だ。ポアロに着くまでその手が緩むことはなかった。








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