ゼロの狭間

□?
1ページ/3ページ


白い封筒が郵便受けに入れられてから一週間が経つ。安室さんが来たら相談しようと思っていたのに、彼はあれから一度もポアロに顔を出していない。ここに勤めてから敢えて考えることはしなかったが、今は原作で言うどこのあたりなんだろうか。一週間も安室さんがポアロに来ていないということは何か原作に関係することが起きているのかもしれない。だとしたら何の話で、いつ終結するのか。いつ安室さんはポアロに戻ってくるのか。まさか実は黒の組織を既に壊滅まで追いやって、安室透で潜入捜査する必要がなくなったとか?最近コナン君も来ていないから、元の新一の姿に戻ったとか?
蘭ちゃんや子どもの姿のコナン君に心配掛けないように毛利探偵事務所には相談していなかったんだけど、安室さんに相談できないならもっと早く毛利さんに相談するべきだったかもしれない。次の休日にでも探偵事務所へ行って様子を伺ってみよう。コナン君がいるかいないか確認しておきたい。

本日の仕事を終えて帰路につく。
帰路と言っても帰るのは自宅ではなく宿泊の出来る温泉施設だ。もう怖くてあのマンションには一度も帰っていない。必要最低限な日用品と着回し出来る服とそれを持ち歩けるキャリーバッグを購入して、ある施設に滞在している。流石にホテル暮らしするほどの余裕がない。かといって野宿は論外、ネットカフェは匂いや衛生面的に苦手だ。長時間本を読むのに居るくらいなら平気だが泊まりがけは気が引ける。それにほとんどが男女共用スペースで鍵付きの女性専用スペースがあるにしても満室なことが多い。私の利用している温泉施設は女性専用施設の岩盤浴と温泉が利用できるところだ。施設内に従業員含め男性が一人もいないので、今の私にとって安心できる環境施設だ。寝泊まりはそこでして、近くに駅があるのでそこのロッカーにキャリーバッグを入れてポアロへ出勤している。流石にキャリーごとポアロに行ったら色々質問されるだろうから。

気味の悪い白い封筒を入れられてから、周りを警戒するようになり精神的にも限界が近い。あの盗撮以外の危害とかはとくにない。本当に何もない。ない方がいいんだけど、見られているのか見られていないのかよくわからない状況なので気が抜けない。マンションには一度も帰っていないからもしかすると郵便受けに白い封筒が増えているかもしれないけど確認しに行く勇気が無い。こんなのがいつまで続くのだろうか。





来店を知らせるベルがなり挨拶をしながらドアを振り向くと、今しがた存在の確認をしようと思っていた人物が立っていた。

「いらっしゃいませ!こんにちはコナン君!久しぶりだね!!」

「こんにちは莉子さん!」

子どもの姿のコナン君だ。残念ながら組織の壊滅はまだのようだ。ということは安室透がまたポアロに潜入捜査で戻ってくるはず。そう思考し少しだけ安堵した。

「・・・あれ、なんだか少し痩せた?」

「え、いきなり体型を褒めるなんて、やりますねぇ」

「そうじゃなくて!それに痩せたというよりやつれたように見えるけど何かあったの?」

鋭いなぁコナン君、流石の観察眼。
確かに最近食事が喉を通らないのでゼリー飲料で済ませている。流石にそれは体に悪いことはわかっているので食べる努力はしているけど、だめなのだ。固形物を口の中に入れようとするも拒否反応が起きてしまう。なんとか口の中に入れて咀嚼しても飲み込むことが出来ず、無理して飲もうとすれば吐いてしまうのだ。食欲は湧かないけど喉は渇くのでその時にゼリー飲料を飲む。必要以上の水分を摂るとそれも吐いてしまうからだ。もう胃が何も受け付けない状態のようだ。

そんなことを素直に言うわけにはいかないので、気のせいじゃないかな、とコナン君に返事をして席に通す。

「注文は決まっている?」

「うん。レモンパイをアイスコーヒーお願い」

今日はオレンジジュースじゃないんだ。一人だからかな?かしこましましたとその場を離れキッチンの梓ちゃんに注文の引き継ぎをしたころでメニューを決めたお客から声を掛けられその応対へ出向く。男性客だ。
さっき一目でコナン君に体調を気づかれてしまったから、ヘマをしないよう気をつけないと。前よりは幾分かマシにはなったが、応対が無意識にぎこちなくなってしまうのは変わらない。男性客から注文を受け梓ちゃんに引き継ぎしなんとかいつも通りを装えた。あとは出来上がった料理を運ぶ難関をクリアすれば・・・あ、そのあとの会計も気を張らなくてはだ。

コナン君に注文メニューを持って行き、空いた席の付近掛けをしてカウンター奥へ戻ると男性客の料理が完成しており、いよいよ運ぶ時がきた。いちいちこんなことで神経すり減らしていてはいけないのはわかっているけどもはやこれは生理現象になりつつあるので仕方が無い。
意識をしすぎていたが、なんとか配膳は終わった。後から来店した女性客にはいつも通りの応対をし、今来客中の人たちの料理は出し切ったため少しの休息時間が訪れる。それを見越してかコナン君が私に話しかけてきた。

「莉子さん、やっぱり何かあった?」

「えっ」

なにか不自然な点でもあっただろうか。いつものように振る舞えていたつもりだったんだけど。

「・・・どうしてそう思うの?」

「・・・なんとなくだけど、無理しているように見えるから」

「っ・・・」

言葉に詰まっては駄目だ。コナン君は最初に気遣ってくれた時より真剣みを帯びた声色と表情で言いこちらを見据えてくる。
子どもなのにその言葉に縋りたくなる。でも原作には関係の無い私のことに関わって、本来負うはずではない怪我などされては困るし、それにより支障が出てはいけない。安室さんにも言えることではあるんだけど、原作にはないが表向き本業としている探偵業の活動もしているようだからその一環として対応してもらう分には、主人公のコナン君に動いてもらうよりは支障がなさそうだと判断してのことだ。

「・・・大きい声では言えないんだけどね、」

「うん」

「断食ダイエットをしておりまして」

「・・・は?」

「ほら、ポアロのまかないが美味しくて食べ過ぎちゃって急激に体重が増えましてね・・・」

「嘘をつくならもっと上手くした方がいいよ」

「嘘じゃないよ!本当今のところ何も食べてないからほぼ成功してるから!」

「ダイエット失敗の疑いをしたんじゃなくて・・・食べていないのは本当。でもダイエットというのは嘘でしょ?」

「・・・依怙地だね」

「莉子さんこそ」

困った。何故かバレている。でも本当のことを言うわけにはいかない。言ってしまえば必ず犯人を突き止めようと動くに決まっている。頼もしい彼のことだから絶対に犯人を見つけてくれるし、きちんと対策も考えてくれるだろうけど、やっぱり主人公に迷惑は掛けられない。





.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ