愛してます。だの、好きです。だの。幾人もの女に、僕は笑って嘘をついた。そうすれば、彼女たちは、嬉しい、と、好きだ、私も、と僕に身を委ねた。好きでもない女に、愛を囁くことになんら罪悪感を感じることもなく。僕は無数の性欲処理器という名の『玩具』の中に満ち足りない想いを吐き出していた。何が足りないのか、わからないから、また、満ち足りず。その繰り返し。

そんな中で、僕は、彼女を見つけた。『玩具』は、綺麗なのも、華のあるものもたくさんいたけれど。彼女は、至って普通だったのだけれど。彼女に対してだけは、僕は、嘘をつけなかった。何千、何万という女に吐き捨てた愛や恋を、軽々しく彼女に告げるのが嫌だった。

「私は、玩具、なんでしょう?」

貴方を満たすことすら叶わない私。だから骸は、私に愛してるとは、好きだとは言わないのでしょう?と泣いた彼女の涙を拭ってはやれなかった。違う、のに。嘘、が言えないかわりに、本当、も言えなかった。

幾度身体を重ねても、『玩具』の様に優しく『愛して』やれなかった。いつもいつも泣いて、いつもいつも疲れていた。それでも彼女は離れなかった。

「逃がして、あげましょうか」

嫌だ、駄目だ、と泣き叫ぶ自分を殺して、僕は囁いた。きっと驚いて、それはもう落ちそうな程にあの大きな目がさらに見開いて。優しい君は「ありがとう」などと、僕に言って去っていく。あまりにリアルな想像。ああ、尽きることのない、この、愛欲、愛執。束縛することで、君は壊れてしまうだろう。

君は、首を振った。横、に。
何故、と問う前に彼女は笑って言った。

「愛してるの」

ああ。これは哀憐か、愛戀か。もうどちらでもよかった。その言葉だけで僕は生きてゆけると思った。

「ですが、僕はもう飽きてしまいました。」

嘘です。

「非常に使い勝手の悪い『玩具』なので」

飽きたなんて、玩具だなんて。

「それとも、僕との行為が忘れられませんか?」

忘れられないのは僕だ。

「だったら犬や千種に相手をしてもらうといい。それを望むならここに居てもかまいません」
「む、骸…?」
「もう僕に望むな」

望んでいるのは僕。泣かせたのは僕。君は何も悪くない。

「邪魔ですよ。」

早く行ってしまいなさい。どうか泣かないで。もう僕の手は君の涙を拭ってはいけないのだから。どうか泣くのは今日だけで。彼女の笑顔を、と。信じたことのない、無力だと嘲笑ったものに祈る。僕こそが、無力。

「sorriso…Arrivederci.」

君の知らない祈りを天に。

【万の嘘に埋もれた一の真】

(どうかどうか幸せに)


何か一言あれば御礼に骸がサンバを←



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