ぼくわたのゆめ2
□踊ってあげる
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「勘弁してくれよ…」
唇の震動に促され、赤く白く燻っていた煙草の先から灰が散った。
『だーめ!今日こそ言うこと聞いてもらいますから』
「その前に原因から潰さねぇと意味ないし」
なによこのっ、と軽くグーで胸を叩いてやる。
「けっ効かねえな」
細められたその目は、悔しいけどいつもあたしの胸を熱くするんだ。
そんな様子がばれないように睨んでいると。鼻で笑いながら口元から下ろした煙草を揉み消し、また新しい一本に手を伸ばす。
そもそも、最近煙草の量が増えたオッサンに説教してたんだ。
『だめっ』
指先が届く前に、全ての煙草を取り上げた。
「ちっお預けかい」
『病気になっちゃう!』
「そんなヤワじゃねーですよ」
言いながら長い腕を器用に伸ばして、あたしの掌を軽く引く。
「んじゃこっち吸うわ」
『ぎゃっ』
ちゅうっと小さな音と伴に指に吸い付いて、意地の悪い視線をあたしに向けるオッサン。
『セクハラおやじ』
「光栄だね」
ざらりとした温かい舌が爪先を掠め、背筋が痺れた。
『や、やめなさいっ』
「んじゃー煙草くれよ」
『っ!こんの〜…卑怯者っ』
「…知らね」
生温い、あんたの熱に転がされて。イヤイヤ言っても最後は結局、縋りついちゃうバカなあたし。
「“やめなさい”?」
『ば、ばか、』
あんたには、説教もパンチも、何をやっても敵わない。
『…もっと…、今日だけは許す』
「けっ」
ニヤリと笑う、それが全てあんたの作戦でも、ね。
だってあたし、踊らされてるんじゃないの。踊ってあげてるんだよ。
踊ってあげる
(あんたの前でなら、いつだって)
END
(090103改)