D.Grayman

□「哀しみの旋律」
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夢を見る。決まってそれは、昔の夢だ。
そう。それはリナリーが、教団に連れ去わられた時の夢−−−。

遥か東の国、中つ国に僕らは住んでいた。肉親はいない。まだ10にもならない幼きリナリーと、生活は決して裕福でもなかったが、それでも慎ましく二人で支えあいながら生活していた。
まだ幼いリナリーは、二人きりとあってか、コムイにひどく懐いてくれていた。両親がいない寂しさを露にも出さず、いつも笑って楽しそうにコムイの後を着いてきている姿は愛しいもので、コムイにとっては、自分の命より大切な存在だった。
可愛いリナリー。
兄でもあり、親でもあり、時には友達のように。コムイは一心に愛情を注いだ。リナリーが生きる理由だった。


しかし、いつまでも続くと思っていたその生活は長くは続かなかった……。
教団の人間が、リナリーを迎えに来たのだ。

今も目に焼き付いてる。
嫌だと泣き叫び一人行くのを嫌がったリナリーを。世界の為に、リナリーの力が必要だと、選ばれた存在だと言われ、コムイはその小さな手を手放した。
すぐに会えるよと泣くリナリーを宥め、見送った。
この時はそれでいいと思った。
まだ小さいリナリーには、未来が可能性に溢れている。こんな狭い世界ではなくもっと広い世界を見る権利があると。
だから、手放したのだ。

しかしリナリーがいなくなり、駄目になったのはコムイの方だった。
自分一人生きる意味なんてあるんだろうかと、自棄になっていく。リナリーがいない寂しさを紛らわす為に、酒に溺れ女を抱き、働きもせず。自堕落な生活を送った。
すぐ会える。なんて。
すぐっていつ?
リナリーが聞いてきた言葉。そんなのコムイ自身が聞きたかったぐらいだった。

荒れ果てた生活が続き、ある日、コムイの前に一人の男が現れたのだ。
その男は、言った。
「おまえの妹が待ってる」
コムイは目を張った。
リナリーの事を知っているのはコムイだけなのに。
どういう意味だと、詳しく尋ねようとも、すでに男の姿はなく、咄嗟に店を出てもその姿は見当たらなかった。

しかし、この事でコムイの生活は一変した。
どうしても男に言われた言葉が引っ掛かり、教団に入るために、必死に勉強した。勉強するにつれ、教団がどんな所か知り、リナリーがどんな状態かも知った。
直ぐさまに、リナリーを行かせた事を後悔した。

コムイが入った当時の教団は、本当にひどいものだった。
内部では人を人だと、エクソシストをエクソシストだとは思ってない行為が繰り返えされ、ゴミなように処理される死体。
そんな毎日だった。
それを、少しづつ。少しづつ変えてきた。少しでもリナリーが笑っていられるように。
仲間が増え、リナリーは教団をホームだと言う。
為りたかった形に、教団は変貌した。



しかし、コムイは今でも夢を見る。
あの時、リナリーを連れていくのをなんとしてでも阻止していたら……。
まだ16歳。これから楽しい事もある。未来がある。アクマとなんて、闘う必要なんてないはずなのに−−−。


コムイは夢を見る。幼いリナリーがずっと、コムイに手を伸ばしてくる夢を……。
「兄さん!嫌、嫌ー!!行きたくないよ!兄さん!兄さん!!」

悲痛な叫びが頭から離れない。




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