D.Grayman

□「贖罪」
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6名のエクソシストと探索隊142名、合わせて148名が数日の間に命を絶えた。
その現実は教団の隅々まで知りわたり、重たい空気が教団を包み込んでいた。その空気がふっきれぬまま、日は過ぎ、少しずつ死者は増えていく一方だ。
 そして、また一人、探索隊と数少ないエクソシストが無惨な姿となって教団に返還してきた。
 教団にある大聖堂にずらりと列んだ、棺。その側では、仲間の死を悲しみうずくまっている探索隊員が数名崩れこんでいた。
 コムイは、すっと前に出、頭を下げた。
「おかえり。お疲れ様でした。今までありがとう」
 冥福を祈り、これからは安らかに眠って欲しいと願って。
 頭を下げたコムイにふらりと、生き残った探索隊員の一人が伏せていた頭を上げ、コムイに近づいてくる。その顔は、涙と受けた攻撃の傷でボロボロだった。体のあちこちに包帯を巻き、じんわりと赤く染みている。
「室長さん。みんなを家族の元へ帰してやってくれよ」
「君は・・・」
「俺は、第12班のジッパーだ。なぁ・・・、お願いだよ」
「それは、出来ない」
 コムイが、硬い表情のままで否定すると、みるみる内に男の顔が歪み、吐き捨てるように言う。
「分かってる。分かってるさ。それが掟だ。分かっている上で頼んでるんだ!俺のダチが目の前で死んだんだ。あいつは最後まで家族がいるから死ねないって。息を引き取る間際まで死にたくないって叫んでたのに・・・!」
 懇願する男に、コムイはゆっくりと首を振る。
「例外はない」
「・・・っ!どうしてだ?どうして・・・っ。俺たちはこの5年間、教団の為に頑張ってきた。いつも死と隣り合わせで、いつ死ぬか分からない。そんな中、いつも家族の写真眺めてさ、5年経って育った子供の姿を思い描いて、いつか帰ることだけを夢見てっ!どうして、そんな簡単なことすら許してもらえないんだ!!」
 コムイに詰め寄った男はそのまま、コムイのコートを掴みずるずると崩れた。
「確かに、彼らの遺体を家族の元へ還すのは簡単な事だ。しかし、その家族が千年伯爵の誘いにのってしまったら?そのアクマが今度は君達を殺めてしまうかもしれない。そうならない為にも、彼らを家族の元に還してあげることは出来ない」
「・・・・・・っ。頼むよぉ・・・。俺も死んだ時ぐらい家に帰りたい・・・うぅ」
「・・・・・・」
 泣きくづれる男にコムイは何も言うことが出来なかった。じっとしているコムイにまた一人、声がかかる。
「あんたらは、ずるいっ。俺らはいつも戦場にいて、戦っているのに、どうして守られているこの場にいるあんたらが俺らの事、決めるんだ。慈悲の一つもないのかっ!なにが、世界の終焉だ!仲間が死んで、家族にも一生会えない。これで、なにをどう守ればいいんだ!!なんの為に、頑張ればいいんだ!俺からしてみれば、あんたらの方がよっぽどアクマだ!!」
「・・・っ」
「おい、ふざけるなよっ」
「・・・ひっ」
 叫んだ男の台詞に、一歩下がっていたリーバーがギロリと怒りを露わにした。
 男はリーバーの剣幕に脅え、小さく悲鳴を上げると逃げていく。
「リーバー君。いいから」
「しかしっ!」
「彼らの言ってることは正しい。しかし、それでも承諾することは出来ない。だから、言って発散できるなら、それでいい」
「・・・くっそ」
「大丈夫。今は感情的になっているだけで、彼らも分かっているんだよ」
「でも、言葉が過ぎる。言ってもいいことと、悪いことがあるぜ」
 ぎっと唇を噛み締めるリーバーにふっとコムイは微笑んだ。そんなコムイもリーバーはギロリと睨みつける
「なに、笑ってるんスか・・・」
「いや、ごめん。・・・さて、仕事に戻ろうか。僕らは僕らの出来ることを精一杯やるしかないからね」
 コムイは、もう一度、深く頭を下げ、大聖堂を後にした。

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