D.Grayman
□「別離」
1ページ/1ページ
元帥の一人が殺された。
その現実はひどく教団を揺るがし、誰もが息を飲んだ。
千年伯爵の駒がまた一つ進み、世界がまた一歩破滅へと前進する。
千年伯爵の目的が元帥に移行した今、おのずと教団のしなければならない事も決まった。 これ以上、犠牲を増やさない為に、イノセンスの核である「心臓」を奪われないように、エクソシスト達は元帥の元へ向かうことになった。
神田はティアドール元帥の元へ。
アレンはクロス元帥の元へ。
道は別れた。
教団の石造りの廊下を神田は一人歩いていた。
物音一つなく、月明かりしか頼りにしていない廊下は真っ暗で先など見えない。
不気味さが漂う中、神田は平然と自室へと向かうが、ピタリとその足を止めた。
「誰だ?」
微かに漂う気配を察し、神田の目付きが鋭くなる。そっと腰に掛けている夢幻に手を添える。
その気配に向こうも気づいたのか、慌てて円柱の影から姿を出した。
「モヤシ!」
「あ、あの・・・」
思いがけない相手に一瞬目を張り、すぐ怪訝そうにアレンを見つめ直す。
「こんな所で何をしている?」
「あ、あの。神田は、明日ティアドール元帥の所へ向かうんですよね」
「お前はクロス元帥だったか」
「・・・はい」
心なしか、声が沈んでいる。
その気持ちは分からないでもないが。
「で、それがどうした?まさか、また駄々でも捏ねているのか?」
「そんな事してませんよっ。確かに、嫌ですけど・・・。まさか、元帥がアクマに殺されるなんて。それほど・・・」
「お前、怖いのか?」
「そんな事っ!唯、もう人が殺されるのは見たくないだけなんです」
「力のない奴は死ぬさ」
戦いの中では、犠牲は付きものだ。
今更、そんな事を嘆いていても時間の無駄だ。
他人を哀れむ前にする事がある。そんな真似、何時でも出来る事だ。
ここ最近になって、ようやく自分の立場を理解してきたなと思い直していたが、そうでもなかったようだ。
まだ甘い考えを捨てていないアレンに、呆れると同時に神田は腹が立った。
しかし、
「神田は、無事に生きて帰ってきますよね?」
アレンの言葉に目を張る。
「はっ。人の心配より、自分の心配をしたらどうだ」
「それは、そうだけど。僕は・・・、」
いつもなら言い返しているはずがその返答は歯切れ悪く、神田はイライラと舌打ちした。
「何を心配してるか知らんが、余計なお世話だ。俺はまだ死ねぇねんだよ。さっさとお前もクロスの所へ行って少しは任務を果たせ」
アレンは少しじっと見つめてきたかと思うと、嘆息してみせると、あっさりと踵を返した。
「分かりました。じゃあ、僕はこれで・・・」
しかし、その姿が闇に紛れる間際、咄嗟に呼び止めてしまった。
「神田?」
案の定、きょとんとした顔が振り返り首を傾げる。
「神田どうか・・・?」
「くそっ」
どうして引き止めたのか分からない。
神田は自分でも理解しがたい行動に舌打ちしつつ、アレンに近く。
そして、軽く唇を押し付けた。
「・・・!」
「お前こそ、千年侯に殺られるんじゃねぇぞ」
目を見開き、口元を抑えるアレンの耳元で囁く。口の端を持ち上げてみせ、呆然としまままのアレンをそのままに神田は足早に立ち去った。
終わり。