並行する宇宙のひとつ

□雨宿り
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「災難だったな。お前も雨宿りか?」

雨音のせいで多少聞き取りにくかったが、確かにナルトが知っている声だった。

それも毎日聴いている…


「…カ、カカシ先生!?」


随分隅っこの方にいたのだろう。
人がいるなんて気付かなかったし、しかもそれが担任教師だったとは思ってもみなかった。

「そう。気付かなかった?オレはお前が駆け込んでくるの見てたけどね」

ナルトを驚かせて楽しかったのか、少し笑いを含んだ声が気に入らない。

「こんなとこにいるなんて、気づかねぇって。…先生こそ、雨宿りしてんの?」

「まさかこんな大降りになるとは思わなくてな〜。ま、通り雨ならすぐやむでしょ」


それきり会話は途切れてしまった。


担任とは言え、個人的な話はほとんどしたことがなかった。



…気まずい…



沈黙が重くて、何か話しかけようとしても、共通の話題など学校のことしかない。

だが、さっきまで補習を受けてきた身としては、その話題を自分から振りたくはなかった。

そうやって、ためらっていると。

「…さっきの続きだけど…ガイの補習受けてたのか?」

「!あ、うん…そうだってばよ」

向こうから話しかけてくれて、内心ホッとする。

「アイツ、暑苦しいから大変だったろ?こんなに遅くまで居残らせちゃって…熱血教師に付き合う生徒は堪ったもんじゃないよな」

カカシの言い方は非難という感じではなく、ガイと親しいからこその気安さというのが見てとれる。

「あ、いや、でもさ。俺ってばゲキマユ…じゃなくて、ガイ先生みたいなの嫌いじゃねえっつうか…結構楽しいしさ」

「お前、あんなのが好きなの?物好きだねえ」

カカシの声には、やはり笑いが含まれていたが、今度は不思議と嫌な感じがしなかった。

「先生、俺が補習受けてたって知ってたの?」

「ん〜、知らなかったよ。けど、お前部活もしてないし、いつもはバイトがあるからすぐ帰ってるだろ?だから、多分補習でもあったんだろうと思ってな」

驚いた。

担任だから、受け持ちの生徒のことを知っていて当たり前ではあるが。

いつものんびりして、何故か常にマスクで顔を隠し、なにを考えてるか分からない、飄々とした教師だと思ってたのに、自分の事を知っていてくれたのだ。

意外と、先生らしいとこあるんだ。

と、よく考えればかなり失礼なことを内心思う。


それにしても、肝心の天気の方は…

「…なんかさ、雨やむどころか強くなってねえ?」

「…だよなあ。オレもそう思ってた所だ。通り雨じゃなかったのか…?」

強まる雨足に比例して空は暗く、視界はさらに悪くなっていた。

今いる軒先からほんの数メートル先もよく見えない状態だ。

「…なあ、先生。これって濡れるのカクゴで駅まで走った方が良くねえ?」

「…やだよ。びしょ濡れで電車に乗るなんて。それにこれ以上濡れたら、風邪ひくしな」

これ以上って…もう遅いような気がすんだけど…

「あのさ、俺ってばまだ若いし、体温高いからダイジョーブだけどさ、先生って見るからに体温低そうじゃんか。大丈夫なのかよ?」

「…オレが年寄りで不健康だって言いたいの?言っとくが、まだ、30だからな。……ま、体温低いのは事実だけど」

え?…先生って、思ってたより若いんだな。
知らなかった…というか、いっつもマスクしてるから分かんねえって!


こうして話していると、さっきまでの気まずさが嘘のようだった。
だが、雨が強くなったせいか、余計に声が聞き取りづらくなっていく。


…ここには、俺と先生しかいないワケだし。
近くに行っても…いいよな?

「なあ、先生、そっち行ってもいい?」
「ん?別に構わないよ」

柱が邪魔で見えなかったが、近寄ってみるとカカシがマスクを外している事に気付いた。

初めて見るその顔を、驚きとともに、思わず…じっと見つめてしまう――
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