歯医者さんシリーズ

□電話<つながる、つながらない>
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 話


─side Kakashi─






『もしもし?先生、もう寝てた?』

「いや、まだ。明日の資料に目を通してた所だ」

『まだ勉強してんの?それでなくても最近寝不足だったってのに。明日の朝、起きれんのかよ?』

「お前ね。仕事の時に寝坊する訳無いだろ」

『え〜、だってさ、デートの時は先生いっつも遅れてくるじゃんか。あれって寝坊だろ?毎回下手な言い訳してっけどさ』

「あのな、言い訳じゃなくて本当なの。急いでる時に限って、捨て犬がオレの通る道にいるんだよ」

『はい、嘘!今時そんなベタな嘘に引っ掛かるやついないってばよ』

そう言いながらも、ナルトの声にオレを責める色は少しもなくて。
電話越しに聞こえてくるナルトの笑い声が、鼓膜を震わせる。


たったそれだけで、家を遠く離れた場所で夜を過ごす緊張感が解されていく。

ナルトが寝る前に電話をかけてくるなんてほぼ毎日の事なのに、何故か今日は特に安心できた。

明日に控えた学会の準備疲れなのか、移動の疲れなのか、倦怠感が全身にけだるく広がっていて、このままナルトの声を聞きながら眠りたいと思った。


「…ナルト、京都から帰ったら、久しぶりにどこか出かけようか?」

『……えっ!マジ!?俺、スゲー嬉しいっ!バイト、絶対休み取るってばよ!』

本当に嬉しそうなナルトの弾んだ声を聴いていると、むず痒いような喜びが心を満たしていく。

オレはこれまで、こんな風に、誰かの声を聞きたい、と願った事はあっただろうか。


けれど同時に、声だけでは飽き足らず、触れたい、触れてほしいと望む自分がいて、オレを戸惑わせる。


―――そう思うのは、オレだけかもしれないのに。

少し高めの、掠れたナルトの声を…その体の熱を、もっとずっと近くで感じたいと願ってしまう。


だからオレは、そんな浅ましい欲望を悟られないようにと、

「ああ。今日はもう疲れたから、切るぞ。…おやすみ、ナルト」

気持ちとは裏腹に、そっけなく終わらせる。

『あっ、うん、疲れてんのにゴメン。じゃあ、先生、あんま無理すんなよ。…おやすみ』


…――プツリと切れた電話に寂しさを感じるのはいつもと同じで。

この気持ちが独りよがりではない事を、誰が証明できるだろうか。


―――ナルトとの電話はいつも、嬉しいのに、寂しい。




オレを好きだと言ってくれたナルト。

だけど、男のオレとキスしたり、…その先も…そんな気持ちを伴っているのかなんて知らない。
実際、付き合って三ヶ月経っても、ナルトは触れてこようとしないのだから。


今まで“恋人”と呼べる存在は何人かいたが、こんなに長い間、相手の出方を伺う付き合い方なんてした事がなかった。
もちろん、相手は女性ばかりだったが。


気持ちが強すぎると…何をするのも難しい。



オレはため息をひとつついて、ベッドに入った。





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