歯医者さんシリーズ
□素顔<はじめて>
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「親父さん、コンバンハ〜」
「おう、ナルトちゃんいらっしゃい!」
暖簾をくぐると、お馴染みの笑顔で迎えてくれる親父さん。
一楽に来るたび、家に帰って来たような気持ちになる。
家族が待つ家なんて味わったことないけど、こんなあったかさを持ってるのだと思う。
味だけじゃなくて、この温もりも。
俺の大好きな場所。
「こんばんは〜」
続いて先生も入ってきた。
「おっ、今日は連れがいるんだな。兄さん、ウチは初めてかい?」
「あ、どうも」
「ナルトちゃんの同級生…じゃあないよなあ、どう見ても」
「俺の学校の近くでやってる歯医者の先生。この前、診てもらったんだってばよ」
「そうかい、まあ、ゆっくりしていってくんな。ナルトちゃん、いつものでいいかい?」
「おう!先生は何にする?」
「ん〜、味噌にしようかな」
カウンター席(しかねーけど)に座って、ラーメンができるのを待つ間、先生と何気ない話してても、俺の頭の中は先生の顔の事しかなかった。
考えてみたらさ、好きな人の顔も知らないって、ヘンだよな。
顔で好きになるわけじゃないし、先生の顔が隠したくなるくらいひどくても、俺の気持ちは変わんねぇけど。
やっぱ、気になって仕方ない。
隠されてると余計に気になるのが人情ってもんだろ?
「へい、一楽スペシャルお待ち!先生は味噌ラーメンな」
つらつら考えてるうちに、いよいよその時がやってきた。
うー、何か緊張するってばよ…
「お、うまそうだな〜。いただきます」
きちんと手を合わせて食べようとする先生。
大好きなラーメンを目の前にしてるのに、俺は緊張のあまり、手の平に汗をかいていた。
先生がゆっくりとマスクを外していく。
思わず、ごくりと唾を飲み込む。
マスクの下から現れた素顔は……
………
息をのむ、ってこういうことなんだと、俺は人生初の経験をした。
何にも言えなくて、しばらくボーっと先生を見つめてしまう。
「あれ?ナルト食べないのか?お前が言ってた通り、すごくうまいよ。ありがとうな、ナルト」
先生はそう言って、ニコリと笑った。
目尻に笑いじわが出来て、すげぇ優しい笑顔で…めちゃくちゃかわいかった。
その顔を見た途端、自分でも分かるほど心拍数は急上昇だ。なのに、今すぐ大声上げて駆け出したくなって。
ワケが分からなくなるくらい、嬉しい。
一緒にいても今までは、先生が遠く感じて寂しかったけど、初めて見た素の笑顔は、やっと少し距離が縮まったことを教えてくれたんだ。
一目惚れだってシカマルに言われたけど、俺は多分、何回だって先生に惚れてしまうだろう。
想像したよりずっとずっとかっこよかったマスクの下の顔よりも、ほんの少し心を開いてくれた笑顔は俺の心臓をわしづかみにしたんだから。
すっかりのびてしまったラーメンをすすり込みながら、俺の胸はパンパンに膨らんでいた。
前よりももっと、カカシ先生が好きだという気持ちと
大好きな場所で、大好きなものを、大好きな人の隣で食える歓びで。