歯医者さんシリーズ
□視線<みつめる>
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視
線
ん?あそこにいんのはナルトじゃねーか。
母親に頼まれ、味噌を買いに行かされたスーパーで、シカマルは思わぬ人物と出会った。
…?誰と一緒にいるんだ?
照明のせいなのか白っぽい髪をした、背の高い男と一緒に、買い物をしているようだ。
後ろを向いているため、顔は見えない。
「よう、ナルト。オメー、最近自炊するようになったのかよ?」
一人でアパートに住んでいるナルトだが、以前はカップラーメンばかり食べ、自分で料理などほとんどしていなかったはずだ。
「あ!シカマル!お前こそ、どうしたんだってばよ?」
「…めんどくせーけど、母ちゃんに頼まれてな」
買い物かごに入れた味噌を見せる。
「んで、この人は?」
近くで見上げてみると、白髪ではなく、銀髪の若い男だった。
「ああ、カカシ先生って言って、俺が前に治療してもらった歯医者さん。先生、こいつはシカマル。高校の友達」
短い紹介を受け、シカマルは、どーも、と軽く会釈をする。
カカシ先生と呼ばれている男は、目だけをにこりと細め、君がシカマル君か、よろしくね、と挨拶をした。
改めて見ると、でかいマスクで顔の半分以上が隠れてて人相もよく判らない、何となく胡散臭いヤツだと言う印象を受ける。
歯医者がマスクしてんのは当たり前だが、何で仕事終わっても外さねーんだ?
つーか、何でこの先生とナルトが二人で買い物してんだ?
どういう関係だよ。友達ってんじゃねーのは確かだな。
「先生、今日は何作んの?」
「ん〜、そうだな…ナルトは何食べたい?」
「俺ってば、カレーかハンバーグがいい!!」
「ぷっ、…お子様」
「あっ、そこ笑うなよな!カカシ先生こそ、じじむせぇモンばっか食べてっから、細いんだよ!」
「じじ…オレはあっさり系が好きなの。いいだろ、別に」
などと言い合ってる二人を見ていて、シカマルは気付いてしまった。
ナルトがカカシを見つめる顔に。
しっかり合わせている時ではなくて、ふっと視線がそれた時に、ひそやかに見つめる。
ナルト…こんなに優しい顔できるんだな…
口ではギャーギャー言ってても、目の奥には、大切で愛おしいものへ向ける光があった。
そうか…オメーの一目惚れの相手って、カカシ先生だったんだな。
いつか、恋愛相談でシカマルを戸惑わせた時にも、こんな目をしていたのを思い出す。
気になるんだと言った相手の事を話すナルトの顔は、少し戸惑いながらも穏やかで眩しそうだった。
そして、シカマルはもうひとつ、気付く。
自分へ見せた笑みとは全く違う、カカシがナルトを見つめる顔にも。
マスクのせいで、表情が判りにくいが、だからこそ、瞳が強く語っていた。
痛さと哀しさと、やはり眩しいものを見つめているような。
二人とも、視線を合わせている時には決して見せない顔。
二人と別れて、シカマルは思う。
あの、マスクをした一見怪しげな男の、どこに一目惚れしてしまう要因があったのかは、全く理解できなかったが、
ナルトは出会ったんだな…
昏(くら)い穴を埋めてくれる光に。
そして、カカシも
ただ、カカシの瞳を思い出し、物事がそう単純には運ばないであろう事を案じてしまう。
……まあ、恋愛なんて外野がどうこう出来るこっちゃねーわな。
シカマルは、友人が強い想いを持っているのを知っている。
だから、大丈夫だ、と。
そう、素直に信じることにして夜道を踏み出した。
終
後書に続く