並行する宇宙のひとつ

□海の家パラレル
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燦々と降り注ぐ、眩しい陽光

真っ青な空と、真っ白な入道雲のくっきりと鮮やかなコントラスト




この夏、ナルトは海にいた。

と言っても、遊びに来ている訳ではない。

普段から父親と折り合いの悪い(と思っている)彼は、家にいる事自体も珍しく、大学が休みともなれば、短期集中のアルバイトに精を出していた。


そして今、ナルトが働いているのが、
『海の家・木の葉屋』

その名の通り、ここ木ノ葉海岸でも老舗と言える海の家。

木の葉屋で毎年働いている、自称看板娘のサクラは大学の同級生で、ナルトは彼女に誘われて、今回初めてアルバイトする事に決めたのだ。


父ちゃんと顔合わせなくてすむなら、どこだっていいってばよ――


そんな気持ちで始めたものの、思いの外(ほか)性に合っていたのか、毎日充実している。

じりじりと照り付ける太陽は体力を奪うのではなく、かえって活力を生むようで、汗を流しながら忙しく立ち働くのは気分が良かった。

おまけに水着姿の女性には事欠かない。
次から次へと入るオーダーに追われて、ゆっくり眺める暇はないものの、目にするだけで潤いがあるというものだ。

一日の仕事が終われば、多少水は冷たいが人気の少ない海で思う存分泳げるのも気に入っていた。


そんな平穏な毎日を過ごしていたナルトだが、ここ数日通ってくる、あるお客が気になって仕方なかった。



「いらっしゃいませ!」

サクラの溌剌とした声が聞こえた。

その――気になるお客はいつも、昼時を過ぎて少し落ち着いた時間にやって来る。

「いらっしゃいませ。いつものでいいですか?」

「うん。お願い」

そのお客は毎回決まって同じものを頼む。

オーダーを取ったサクラが厨房に向かって、
「五番テーブル、ホットコーヒーひとつ」
と声をかけた。

そう、ナルトに言わせると、「わざわざこのクソ暑い海に来てまで、ホットコーヒーを注文する変わったお客」なのだ。


「なあなあ、サクラちゃん。あの人また来てんの?」

「見ての通り。…ほんと変わったお客さんよね」

「変わってるなんてレベルじゃねえってばよ。なんで海水浴場でスーツ着てコーヒー飲んでんだろうな」

「私に尋かれても。去年は一度も見かけなかったわよ」

ナルトは、ふうん、と返事を返しながら、その風変わりなお客を見遣る。

半袖のカッターシャツに、黒地のネクタイ。
サスペンダーで吊って同じく黒地のスーツを着こなす細身の男は、平日のオフィス街にぴったりの出で立ちだ。

昼休みのコーヒーショップならばなんの違和感もないその姿。

だが……

今日も、浮きまくってるってばよ。


「ナルト、五番お願い」

「おう!」

トレイにコーヒーを乗せて、五番テーブルへと運ぶ。

「お待たせしました」

かちゃん、と僅かにカップとソーサーが触れ合う音がした。
以前、昔ながらの喫茶店でバイトした経験があるナルトは、ウエイターも手慣れたものだ。

コーヒーが運ばれて来ても、お客はナルトの方を向くでもなく、ぼんやりと海の方を眺めていた。


マジで変わりモンだけど…

男前だよなあ…


しみじみと見つめていると、

ナルトの不躾な視線に気付いたのか、男は「なに?」と、少し小首を傾げて問うてきた。

歳にそぐわぬその仕種に、何故か焦りを感じてしまう。

首を振って慌ててごまかして。
何に緊張したのか速まる鼓動に疑問を感じるより先に、男の視線は逸らされた。


ほっとしたような

残念なような


?……って、何だよ残念って!?

そんな風に思う自分が分からない。


変わったお客さんだから、気になってるだけだって!


ムキになって否定してしまう意味を考えたくはなかった。
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