並行する宇宙のひとつ

□True colors
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「ナルトー!こっち向いて!」
「へ!?」

パシャリとシャッターのおりる音がして、振り向いた瞬間の顔を撮られた。

「あはは。抜けたカオいただき!」
「うお、何だよサクラちゃんってば。言ってくれたらもっとカッコ良くすんのに!」
「何言ってんのよ。それじゃただの記念撮影じゃない。面白くないでしょ?」
「面白くなくていいってばよ」

ぶちぶちと文句を言ってみたところで、彼女には通じない。
なんせ彼女──華奢な手に不似合いなほどごついカメラを構えた春野サクラという女の子は、俺にとって女王サマみたいな存在なんだから。

ただし残念ながら彼女の王子は俺ではなく。

「サスケ君と違ってアンタはおもしろキャラなんだからいいの!」

ほおら、ミもフタもないこの言い種!

「じゃあサスケのスカしたツラでも撮ってりゃいいじゃんか。……付き合ってんだからさ」
「サスケ君は、写真撮られるのなんて好きじゃないもの。ナルトだって知ってるでしょ」

あ…ちょっと切ないカオさせてしまった。馬鹿だなぁ俺。

サクラちゃんは長年の片思いが実って、この度無事お付き合いをするようになった。
けれども、俺に対するようにざっくばらんに口をきける相手ではなくて。
こんな風に、好むものや気に沿わないことなんかを、いちいち考えすぎるくらい考えてしまう。何かと気を遣ってしまう。自分の彼氏、なのにだ。

そして、それを知っててサクラちゃんにこんな顔をさせてしまうのも、その顔を見て胸が痛むのも、俺が昔からの友達以上の気持ちを彼女に抱いているからで。
おまけに、彼女の王子──サスケのことだって、同じく昔から知ってる。そしてサクラちゃんが、いかにサスケバカなのかも、相手にされなくて何回諦めようとしても駄目で、諦めらんなくて、彼女がこそりと幾度も涙を流していたのだって、知ってる。

俺はずっとそんな彼女を見てきてるのに、やっぱり好きな気持ちは揺るがないのだから救いようがない。
だけれども、サスケが長い間サクラちゃんの想いを受け入れなかったのは、生半可な気持ちで付き合うなんて出来ないっていう、アイツの生真面目で一途な性格ゆえに、だってのをちゃんと分かっているから。

一見冷たいようだけど、それって実は本当の意味で優しい。ものすごくモテるくせに、中身は頑固で律儀なサスケの態度は、悔しいくらい格好良く映る。

だから、二人から別々に、ついに付き合うことになったと聞かされた時、俺はやたらとズキンズキンする胸の痛みと同じくらい、嬉しかったのだ。

『良かったなあサクラちゃん』

『おンまえ、待たせ過ぎなんだよ!…けど、良かったなあ』

それぞれへ伝えた言葉は、強がりだけど、強がりだけじゃない。
早く、二人が柔らかなかおで写真に写る日が来ますように、と。
俺は本気で願うのだ。


「ところでさ、俺の顔なんか写してるってことは、なんかサークルの展示会?みたいなもんがまたあるとか?」
「半分、当たりってとこ。今度有名な写真家の先生が、うちの大学で講義と展覧会をやることになったのよね。どうも理事長と古い知り合いみたい。で、サークルではこれ幸いとばかりに、この機会を逃さず先生に写真を見てもらおうって盛り上がっちゃって」

サクラちゃんは、木ノ葉大の写真部だかサークルだかに所属していて、だから学生の身の上に似合わない、立派なカメラを持っている。家庭教師のバイトで貯めて買ったらしい。
彼女は、昔から器用で頭が良い。

「へー。大学ですんの?」
「そうだって。その先生、個展なんかしたらすっごい人気で、あちこちから引っ張りだこなんだから。ナルトも、休みが合えば見に来れば?私も、雑誌でしか見たことないから、ホント楽しみ」

そう言って、先ほどの淋しげな色を拭いさるように笑うサクラちゃんはやはり可愛くて、俺はほんの少し、…いや少しではなく、切ない思いに駆られた。

いつか、こんな感傷に吹かれることなく、彼女を見れる時が来るんだろうか。俺にはまだ分からない。
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