天井裏部屋

□流血のバレンタイン
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それは里が一年で一番、甘い香りに包まれる日の事。





「ところでさ、先生、最近逆チョコ流行ってんの知ってる?」

「逆チョコ…?」

夜更けに長椅子で寛いでいるところ、急に話を変えて問うてきたナルトに、カカシは訝しげな表情をして見せた。

ナルトがいつも唐突なのは昔からで、カカシも長い付き合いの中でもう慣れてはいたが、脈絡がない話の展開にはついて行けない…正確に言うとついて行きたくない場合が多々ある。

「先生ってば、相変わらず世間の流行りにはうといよな。今日がバレンタインってのも気づいてないだろ?」

「忍がそんな浮ついたイベントに乗っからなくてもいいんだよ。だいたいお菓子売場に近づいただけで、あの甘ったるい匂いに辟易する」

その“甘ったるい匂い”を思い出しているのか、嫌そうに眉をひそめる火影の想い人。

普段布で覆われている容貌は、隠すものが無くなった途端驚くほどたくさんの感情を伝えてくる。

しかしそれは、ただあらわになった素顔だから分かりやすいというだけでなく、きっと、一緒にいる相手によるところが多いのだろうと、闇に溶け込みながら二人を見守る影たちは密かに結論付けた。


「そんなことだろーと思った。だ・か・ら、はい、俺から先生にチョコ。彼氏から彼女へ贈るのが逆チョコなんだってばよ」

「だーれーが“彼女”だ?それに、そんな甘いもん食べられないって毎回言ってるでしょ」

“彼女”という言葉に、柳眉を跳ね上がらせて反応するところなど、六代目はわざとやっているようにしか見えない、と影たちは思う。

「大丈夫!先生は食わなくていいからさ。俺がおいしく頂くの」

「………何か…やーな予感がするんだけど……」

………『やーな予感』というのは的中すると昔から相場が決まっている、そう影たちの頭をよぎった“嫌な予感”は、天井裏の空気に緊張を走らせた。

果たして………






「んん、っあ…あ……!」

「うん、チャクラでいーい感じに溶けてるってばよ。せんせ、ど?」

「バ、カなる、と!…っどこ、塗ってんの…ぅああぁ、ッ……!」

「どこって、先生の甘くて紅い粒に。フルーツとチョコってスゲー相性いいんだよなー。うん、ハート型でうまそ」

同時に、ゴク リ…と天井裏のあちらこちらからも、生唾を飲み込む音が聞こえてきたのは決して幻聴ではない。


「……ひ、ぁ…!……んっああっ」

「…ん、すげえ、おいし…あまくて、どろどろで、んで、ココはこりこりしてて」

“甘くて紅い果実”の食感を尖らせた舌でちろちろとくすぐりながら楽しみ、ハート型に塗り付けたそのままに殊更ゆったりとなぞる。
時々からかい半分に軽く歯を立て、小さな実の味も忘れず愉しんで。

いつの間にか帯は完全に取り去られ、はだけた胸は思う存分いじられていた。
紅潮していく白かった肌に塗られた、どろりとした粘性の液体が肌から伝わる熱にどんどん溶けて流れていく。

紅い飾りを汚した甘い濁りが、つうう、と筋肉と肋骨の形に逆らうことなくまるであらかじめ定められた道を辿るように、見惚れるほど美しい腰骨を伝わり銀色の茂みまで汚していった。


「や、メロ…っ、」

「せんせーの“や”はイイってことだもんな。俺ばっか愉しむのも悪いし、せんせーも下の口でチョコ食ってみろって…」

ナルトは節立った指にたっぷりとまとわりつかせ、すでに息を荒げている相手の足を長椅子の上で大きく開かせて、震える腿を掠めて会陰をそっと撫ぜてやった。

それから、一番長い指で入口を柔らかく押し広げ、ねとつく液体をくちゅんと塗りこむやいなや、それまでの優しい仕草が嘘のように、一気に根元まで突き込んだ。

「あ、…やめ…!!…ぃ、ぁああああーーー!!」

「な…?うまいだろ?…あーあ、先生んナカ、すげーことになってんな。熱でチョコ溶けてドロドロじゃんか。指だけじゃなくて、このまま俺のもすぐ呑み込んじゃいそーだな」

「…っく、ぁ…かき、まぜるな、ぁ……」






2月14日───その日の天井裏は真冬にもかかわらず、異常な熱気と下から立ち上る甘いチョコレートの香りが充満していた。


果たして、影が酔ったのはチョコにか。

それとも、何より甘い躯にか……


翌日、六代目火影の鼻に詰めてあるティッシュの訳を知っているのは、面の下で同じく鼻栓をしている影たちのみ。



2月14日の報告書は、こう書いて締めくくられていた。


『チョコレートの食べ過ぎには、くれぐれも注意しましょう。摂取量を間違えると命にかかわります』
と。

甘い芳香にのぼせ上がった火影の頭には、あの夜 天井裏に響いた、あたかもバケツの水をぶちまけるような怪音は届かなかった。


……かもしれない。






流血のバレンタイン








オマケに続く
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