天井裏部屋

□バレンタインの憂鬱
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カカシはそこで四代目の髪の部分に寄り掛かるように座り込んでいた。
ナルトが傍に立っても目を合わせようとせず、じっと里を見ていた。


「風邪ひくから、帰るってばよ」


カカシからは何の(いら)えもない。
ナルトは、カカシはどうしてしまったのだろうと必死に考える。
やはりチョココーティングがまずかったかと思う。しかし、一度やってみたかったのだ。
が、結果カカシに吐かせるという辛い思いをさせてしまった。


「せんせー、ホント悪かったってばよ。この通り謝るから、一緒に帰ってくれってばよ」


カカシに向かって土下座をすれば、カカシは僅かに頷いた。が、やはり目は合わせてくれない。
コートをカカシに掛けれは、冷えきった身体が掌越しに感じられた。
その氷のような冷たさに焦りを感じ、カカシを抱き上げて火影邸へと跳んだ。

火影邸に戻ると真っ先に浴室へ向かう。
カカシを後ろから抱きしめ湯舟に浸かる。冷えた身体のせいか、湯の温度もどんどん下がっていくようだ。
中々カカシの身体が温まらない。
冷えた身体は、そのままカカシの心の表れのように感じられ、ナルトは目の前にある白い首筋に口づけた。
と、カカシの身体が強張った。


「…何にもしないってばよ…」


いつもなら、こうして後ろから抱きしめていればカカシの胸を悪戯している。だが、今はカカシの様子がおかしい事と、先程無理をさせてしまった事で、ナルト自身遠慮しているのだ。
けれど、カカシの強張りは解けない。
ナルトはカカシの心が掴めない事に切なくなり、先生、先生とカカシを呼びながら首筋に、そこから肩口へと口づけていった。

漸く身体も温まり風呂から上がっても、カカシは俯きがちでナルトと視線を交わすことはなかった。
そんなに自分と目を合わせるのも嫌な程、チョコ付きのフェラは苦痛だったのか、とナルトは後悔する。
そんな事をしなければ、今頃はカカシとベッドの中で十二分に愛しあっていたのに。

部屋に戻れば暗部達が片付けてくれたのか、チョコの入った容器はなくなっていた。
換気もしてくれたのだろう、匂いも残ってはいなかった。その事に感謝しつつベッドへ入る。
ベッドに入っても、背中を向けようとするカカシに切なくなる。


「カカシ先生…頼むからこっち向いてくれってばよ…」


カカシは少し躊躇してから、ゆっくりナルトの方に向き直る。
ナルトはいつものように腕枕の位置にカカシを抱き寄せれば、カカシは身体を強張らせたまま何も言わず大人しくナルトに抱きしめられた。


「今日はもうしないから、このまま寝るってばよ」


そう言ってカカシの髪にキスを落とす。
それでもカカシの強張りは解けることはない。今まで散々そんな事を言ってはカカシを翻弄してきたのだ。カカシが信用しないのも無理はない。


「本当に何もしないから…ごめん…」


カカシが許してくれないのなら、許してくれるまで謝るしかないだろう。ホントにごめんと呟けば、カカシは小さく首を振った。

小さな子をあやすようにカカシの背中を撫でる。そうして温もりを感じながら瞳を閉じれば、いつしかうとうとと眠りへと誘われていく。


ナルトが眠りに落ちていくのを感じると、漸くカカシは身体の強張りを解いた。
本当はもうとっくに許してはいるのだ。ただ、少しは懲らしめておいた方がいいだろうと思った。
一年のイベントはまだまだあるのだ。ナルトのエロさは自来也仕込み。
油断大敵。
何をしだすかしれたものじゃない。
カカシは普通のセックスで充分なのだ。ただこうして抱きしめあっているだけでもいい。
こうして傍にいられる事が幸せなのだ。それを分かって欲しい。

カカシはふうと一つ息を吐いて、自らもまた眠りの中へと落ちていった。





翌朝、いつもより幾分高い温もりに違和感を感じ目覚める。
と、飛び込んでくるのは銀の髪。寄り添うように安心した顔で眠っている愛しい人。
夕べのような青白い顔ではなく、少し赤みがかった頬をしていてホッとする。
ナルトは肩肘を付いて起き上がり、カカシの髪を梳く。見た目より柔らかく冷たい髪は心地好く指の間をすり抜けていく。
その心地好さに暫く梳いていると、それに気づいたのかカカシがうっすらと目を開けた。
まだ寝ぼけているのか、ぼーっとナルトを見つめている。
やがてナルトを認識したのか、にっこりと微笑んだ。


「…おはよ…」

「あ、ああ…。おはようだってばよ」


((か、可愛い!))


心の声が天井裏の暗部と重なった事は知らない。
ただ、寝起きのカカシの顔に声なき声を上げたのは事実だった。


「せんせー、身体おかしな所はない?」

「お前…。まさか寝てる時に変なコトしたのか?」


カカシの目が据わる。慌ててナルトは否定する。


「違うってばよ! せんせーの顔が少し赤いから、熱でもあるんじゃないかと思って…」

「ああ…。大丈夫だよ」


にっこり笑って言うが、実は少し頭が痛かった。それを言えば、ナルトが大袈裟に騒ぐから大丈夫と笑う。
だが、今回はそれで騙されてはくれなかったようだ。額に手を置き熱を計る。


「んー、やっぱあるってばよ。今日はこのまま寝てて」

「いや、大丈夫って言って…「だめ。夕べ、あんな寒いかっこで外にいたから風邪ひいたんだってば。今日は大人しくしてるってばよ。後でサクラちゃん寄越すから」

「そんな、風邪なら寝てれば治るし…」

「風邪はひき始めが肝心だってばよ。サクラちゃんなら気兼ねすることもないだろ?」

「う…」


する!絶対する!
サクラとあの女性暗部はツーカーなのだ。ましてナルトが呼び付けカカシを診るとなると、何故こうなったかナルトから聞き出す筈。夕べの一件が明らかにされるのだ。いたたまれないなんてもんじゃない。


「ねぇ、ホントにサクラ呼ばなきゃダメ?」


憂鬱さを隠さず問えば、一拍遅れて返事がくる。


「…ダメだってば」


(何だってそんなに可愛いんだってばよー!)


可愛いというとカカシが嫌がるから、なるべく心の中で叫びをあげる。

サクラに診てもらうのは、その時のカカシが可愛いから。
意味ありげな事を聞かれて恥ずかしそうにしてるカカシは、堪らなく可愛いのだ。


仕方ないとカカシは諦めのため息を吐く。
バレンタインとチョコのセットはご免だと小さく呟いた。
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