忍であることの前に

□さんぱつ
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「ハァ、せんせい、髪のびたね」

乱れた呼吸の中、ナルトは前髪を掻き上げて、カカシの目をじっと覗きこんだ。


「俺が、切ってあげようか?」

「…っ、おまえ、が…?」

思いがけない提案を、今こんな時にしてくることに、カカシは驚いた。ナルトの行動は、たいていいつも、そうなのだけれど。

「ん。ってか、俺に切らせて」

「ぅ、…嫌だね」

なんで今こんな場面でこんな話をしなくてはならないのか、誰かTPOをコイツに叩き込んでくれと、カカシは何度目かの同じことを思う。

「なんで?店に行くの、めんどいって言ってたじゃん」

「お前に任すと、変に、なりそうだし、」

切っているうちに変な気分になりそうだし。
のところは口にしなかった。
ナルトはナルトで、カカシ先生はもともと変な髪型じゃないかと思ったのだが、口にはしなかった。

「なんないって。けっこう自信あるからさ。犬のカットも上手いだろ?」

確かに、預かった犬たちのトリミングには、もうだいぶ慣れてはいるが。

「犬と人間は違うでしょ」

「先生いつも一緒だって言ってるくせに」

「屁理屈言うな」

「あはは。だってなんか、髪切るのって、すげー“家族”っぽくねえ?俺、先生とそういうことしたいの!」

ナルトのことだから、また変な“萌えシチュ”とかいうのを考えついたのかと思ったカカシだが、意外な理由を聞いて、少し胸を打たれた。

『家族』という言葉に、じわりと暖められる。
でも、
「……やっぱ駄目」

「なんで?」

「そんな確認、今更しなくても、…お前とオレは“家族”だろ。……もう、いいから、……はやく動け、って…!」

中途半端なところで止められたら、疼いて仕方がないというのに。
こんな事を言わせるなと、カカシはまた何度目かの同じことを思った。

「……!!うーわあ、先生それってば、ものすごい殺し文句!……それに、コレとめたの、そんなにキツかったんだ?」

「っ、馬鹿、やろ」

ぱああ、と輝きが零れるような表情をして、殴り倒したくなる事をするのがナルトという男だ。

じわじわと腰を動かして、カカシの熱をいたぶる。
疼きばかり増す、どうにかなりそうなもどかしさに、カカシは憎たらしい青い瞳を本気で睨み付けた。

「ごめん。そんなん聞いたら、ますます切りたくなった。サンパツさせて」

「おい、ナ…、っ、」


それから、嵐に翻弄される小舟のように、ぐちゃぐちゃのくずぐずのどろどろにされてしまったのは言うまでもない。


そして後日、少々頭をさっぱりさせたカカシの髪を誰が切ったのかは、二人以外誰も知らない。






後書に続く
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