忍であることの前に

□恋は人を盲目にさせると云うが
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某日、里内某甘味処にて。


妙齢の女子二人組が、何やら賑やかしく会話している。


「ねねね!カカシさんって、有名なわりにアヤシゲな人だけどさ、声だけは素敵だと思わない?!」

「あ!それ、スッゴい分かるー!!この間、任務で一緒に組ませてもらったんだけど、間近で作戦の指示とか聞いてると、わたし時々よろめきそうになっちゃって。耳からぞくぞく、ってくる感じなのよね〜」

「あははでも分かる分かる!なんというか、腰にクる声よね。私、声フェチだから、それだけですごい惹かれちゃう」

「わたしもわたしもー!」

「でもさ、あーんなイイ声してんのに、ルックスはあれだもんね、カカシさん。おまけに、噂じゃ火影候補の筆頭に名前が挙がってたらしいし。忍としても一流なのに、ほんともったいないってよく思うわよ」

「目をつむって聴いたら最高なのに、ってやつよね」

「やあだ〜!けどまあ、いまだに独身なのも分かるかも。やっぱ声だけじゃねえ?」

きゃらきゃらと笑う彼女たちの声を背中で聞きながら、偶然店内に居合わせたサクラは、呆れ半分、ムカつき半分というところであった。

全く黙って聞いてりゃ好き放題ぺらぺら言ってくれるじゃないの、ひとの上忍師を捕まえて!

しかし、そういうサクラ自身も、普段カカシに対しては、かなり手厳しい発言が多いのだが。

自分で言う分には構わないが、何故か他人に言われると無性に腹が立つ、というやつなのだろうか、と向かいに座るナルトは妙な感心をしながら、サクラがぼそりと言うのを聞いていた。


「ちょっとナルト!アンタ自分の元上司が馬鹿にされてて、平気なワケ?!なによニヤニヤしちゃって気持ち悪い」

「気持ち悪いって、サクラちゃんそれひどくないデスカ。…や、あのコたち、別にカカシ先生のこと馬鹿にしてないってばよ。だからさ、…怒って暴れに行ったりしないでくれよなサクラちゃん」

ナルトは本気で彼女たちの無事を祈った。

「…しないわよそんな事!……まあ、当たってないこともないし…。でも先生の声なんて、子供の頃から聞き慣れてるから、今更美声だとも感じてなかったけど、たまーに聞く真剣な時の声は、確かに…格好良い…かも。……見た目は…アレだけど」

やはり彼女達と同じではないかと、ナルトは内心アタリだと思う。

「うんうん」

「だから、なんでアンタはニヤついてんのよ」

片眉を吊り上げて不審そうな表情になるサクラに、ナルトはきっぱりと言い切った。

「だって先生が“イイ声”してんのなんか今更っつー事実だし。むしろ、声だけとかさあ、他の魅力に気付かねーでいてくれるなんて、俺にとっちゃ嬉しいばっかりだってばよ」

「はあ?」

サクラは嫌ーな雲行きになってきたのを感じる。

「あのコたちに聴かせてやりてーくらいだってばよ」

「はあ…」

「ぎゅうって抱きしめた時に、少し照れながら俺の名前呼ぶのを耳元で聴いたり、朝一緒の布団で目が覚めて、『おはよ』ってちょっとかすれ気味の声で言うのとか(劇場版参照)、たまんなくなるんだよなー。あれは本気でヤバい。
あ、やっぱダメだ!!他のヤツに聞かせるなんて、ゼッタイ危ねえ!」

「……ハァ」

もはやゲンナリとして返す言葉が見つからないサクラの、やや冷めた目線をものともせず、ナルトは一人で盛り上がっている。

元上司との仲をあえて隠そうともしないナルトから、ちょくちょくこの手の惚気(だと言い切ろう)を聞いてはいるが、毎回微妙な気持ちに陥るのを止められないサクラであった。

蓼食う虫も好き好きだとか、あばたも笑くぼだとか 昔の人はよく言ったものだと、つくづく感心する。

きっとナルトには、あの得体の知れない風貌の上忍師が、ものすごく“美味しそう”な蓼に思えているのだろう。
そしてサクラには“あばた”だらけにしか見えないし想像したくもないが、ナルトにはどこもかしこも可愛らしい“笑くぼ”に見えているに決まっている。

恋は盲目、とも昔の人は言った。

けれども、ナルトはちゃんと目を開いて、あの人を見ている。

ちゃんと見て、綺麗だとか汚いだとか差別も区別もする事なく、丸ごと引き受けている。

そしてそれはとても貴重で、とても幸せな事だとサクラは思う。

自分も、そう想われたいし、そう在りたいと願っている。


しかしとりあえず、目の前でいつまでも惚気られるのは少し悔しいので、どつくか奢らすか思案するサクラであった。






後書に続く
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