忍であることの前に
□涙
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「……う…ん、あっ……!」
俺が抱え上げた先生の足に、びくりと強い震えがきて、限界が近いのだと悟らせる。
今日の先生は、どこか変だった。
いつもよりずっと貪欲に求めてきて、離れない。
先生のしっとりとした白い胸に、ぱたぱたと俺の汗が滴る。
もう何度目か分からない交わりに、俺達二人は憑かれたように没頭していた。
いつも噛み殺している声を、なぜか今日は聴かせてくれて。
先生の鳴き声にぞくりと耳から刺激を受けて、食い尽くしたいくらいの欲望に駈られてしまう。
涙
「…ふっ……ああっ…!…ナ、ル……!」
「ん…先生っ…も、限界、だろ…?」
尋かずとも、きゅうきゅうと締め付けてくる熱い感触で分かる。
返事がないのを肯定だと受け止め、俺は一旦腰を引いて、より深く奥を突き刺した。
「…っああぁ……!!」
のけ反るようにして、精を吐き出す先生の中へ、自身も放つ。
互いの荒い息遣いが部屋に広がる。
先生はそのまま気を失うように眠りに落ちた。
だけど俺は、眠れなかった。
先生がこんな風に乱れるなんて滅多にない事だ。
普段なら、俺がヤリたがっても素気なく断るくせに。
薄明かりに照らされた、愛しくてならない人の寝顔を眺めながら、俺は先生の方から話してくれるまで尋くまい、と心に決めていた。
先生が寝ている内にひと通り身体を清めてあげ、自分はシャワーを浴びてから、先生の隣に潜り込む。
あれだけ火照っていた身体の熱はもう冷めていたから、体温の低い先生を温めたくて、腕の中に包み込むように抱きしめる。
―――固く閉じられたままの左目から涙を流しながら、何時も俺に抱かれる先生。
それが快感から来る生理的なものではない事は、とっくに知っている。
涙の後が残る頬を、ぺろりと舐めてみると、塩辛い体液の味が口の中に広がった。
その瞬間――
どうしようもなく胸が苦しくなって…――
貰い物の眼でしか泣けないこの人を想って、俺は泣いた。
先生が何も話してくれなくても
例え、俺の向こうに金髪の男の影を見ていても
俺の中に、紅い瞳を持った男を重ねて見ていたとしても
今、涙を流しているアンタを抱けるのは俺だけだから。
永遠に消せない記憶と後悔、
それごと全部纏めて、
俺は先生を抱き続ける。
もうひとつの涙へ