忍であることの前に
□double bed
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double bed
夜中にふと目を覚ますと、背中に慣れた重みを感じた。
至極満足気な寝息が髪の毛にかかり、丸くも柔らかくもない身体を抱いて本当に嬉しいのかといつも思うのだが、がっしりとした腕やオレよりも厚い胸に包まれているのを心地良く感じている自分だって、相当マトモじゃない。
最近やっと、挿れられる行為にも慣れてきたし、その…気持ちイイとも感じるけど。
身体を繋げずに、こうやってただ抱かれる感触が、オレは好きだ。
もぞり、とほんの少し身じろぎすると、耳元で「……ん、…」と声とも言えない声がした。
よく寝ていたようだったのに起こしてしまったかと思っていると、ナルトはオレの腰に廻していた腕で、胸や脇腹、それからもっと下まで辿る。
数時間前の性的な触れ方ではなく、大きくて熱い掌で慈しむように。
「…せんせ、もうちょっと寝てろよ。まだ、起きるには早いだろ?」
「お前、起きてたのか?」
「ん?…や、何となく、先生が起きたみてーな気配させてたからさ」
「寝ぼけて触ってるのかと思った」
「…そうかも。俺ってば夢の中でも先生を抱いてるから」
くくっと笑って、寝起きの掠れた声でさらりと変態発言をする、元教え子。
「…今日から、離れて寝るか」
答えに窮すると裏腹な言葉を返してしまうのは己の悪い癖。
「ヤ。そんな妬かなくても、ホンモノの先生の方がずっとイイってばよ」
……昔から解ってはいたが…こいつやっぱり阿呆だ。
誰がいつ、お前の妄想夢物語に嫉妬したって?
「やっぱりお前、離れろ」
「嫌だってばよ。俺、先生と一緒じゃねーと寝られねぇもん。それにこれ以上離れたら落ちちまう」
オレは抱き枕か。
しかし“ダブルベッド”は嫌だと頑なに拒否しているのは自分だ。
これ以上問答しても話がマズイ方向に行きそうだと予想したところで、案の定お決まりの台詞を言ってきた。
「なあ先生、男二人でこのサイズは無理があるって。せめてダブルくらい買おうってばよ」
「絶対、イヤだ」
「もー、またそうやって反対する。何でだよ」
「何ででも、嫌なの。だいたい、あんなでかいもん置いたら、部屋が一気に狭くなるでしょうが」
「じゃあさ、この際広いトコに引っ越せばいいじゃん。ダブルベッドって新婚さんみたいで憧れだったんだよな〜」
だからその、“新婚さん”が嫌なんだって。
見るたびに気恥ずかしくなるだろうが。
言えない理由は他にもあるけれど、それを言えば絶対否定されるだろうし、それをオレが否定すればナルトはまた打ち消そうとする。
身体が深く混じりあっても、オレ達の心はいつまでも交わらない。
「はぁ…まあ、こうやってぴったりくっつけるからいいんだけどさ…」
オレのうなじに鼻先をこすりつけて、勁すじの匂いを嗅ぎながら喋るものだからくすぐったい。
まるで忍犬にじゃれつかれてるみたいだ。
何故かくすくすと笑いながら言うナルトと想いは同じでも。
そんな事を素直に言える自分なら、ダブルベッドなんてモノもとうに買えてる。
今なら、ナルトは若いし、オレだってまだ、どうにか見られる。
だけどあと五年、十年経った時、ダブルベッドとそれに見合った広い部屋に残されるこの身をどうすればいいんだ?
今、この瞬間のお前は、そうならないと全身で否定するだろう。
だけどオレは違う。
今、お前に抱かれているこの瞬間にも、終わりを見てしまうんだ。
―――ダブルベッドなんて形を残さないように―――