忍であることの前に

□溢れる
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たとえば


一滴ずつ溜まっていったコップの中の水が


溢れてしまうとき


とめどもなくこぼれ落ちるそれを


どうやって止めるかなんて


俺は知らない







溢れる








初めてこの気持ちを自覚したのはいつだっただろうか。

ただ、
あのひとに
『四代目火影を越える忍はお前しかいないと、オレはそう信じている』
と、例えようもなく誇らしく高揚する言葉をもらい、

それまで絶対的に強い存在だったあのひとが、右手を焦がし膝を折る姿を見たとき、

俺はもう、見上げるばかりの子どもではなくなったのだと

やけに胸が熱くなったのを覚えている。



だからといって、俺と先生との関係が劇的に変わることはなかった。

むしろ、変えることなんてできなかった。


後々、あの言葉の重さを知り、噛み締めてみれば、先生が俺のことをどう見てきたか、どんな対象か、手に取るように分かったから。

だけど、知らない頃も知ってからも、閉めきれなかった蛇口から水が滴り落ちるのと同じく、止まることのない想いが溜まっていくのを感じていた。

そしてそれはこの先、何年・何十年も際限なく続いていく、ずっと抱えていかなきゃならない気持ちだと、


そう思っていたのに。






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