忍であることの前に

□秋刀魚
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カカシ先生の好物は言うまでもなく秋刀魚だ。

こんがりと塩焼きになったこの魚が食卓に出てくると、ああ、秋になったんだな、と感じる。

いわゆるフーブツシってやつだ。

普段から夕飯のおかずとしてよく並んでいても(おかげで魚をキレイに食べる技がえらく上達した)、俺は毎年、先生の誕生日には秋刀魚を焼くことにしている。
俺からすれば全然ごちそうに思えないけど、いつ見ても先生は本当に美味そうに食べてるからだ。






  秋刀魚







「なあ、先生ってさ、何でそんなに秋刀魚が好きなの?」

「んー…旨いから」

「いや、そりゃそうだろうけどさ。いっつもすげー幸せそうな顔して食べてるだろ」

「そう?お前だってラーメン食べてる時、幸せな顔してるでしょ」

「だって美味いんだもん。って、俺の事はいいの」

「あはは。やっぱ旨いと自然に顔が弛むんだよ。んー、でも、理由か…理由なあ…」

先生は少しの間考えて答えた。

「うん、秋に旨いもの、だからかな」

「…へ?秋だから…?」

「そう。秋刀魚が美味しい季節――秋になったな、って感じられるから」

「うーん…よく分かんねーけど、俺も秋刀魚が出るとさ、秋っつーかカカシ先生の誕生日が来るなあ、って思うってばよ」


「うん、オレも。誕生日が近くなって秋刀魚食べてるとね、ああ、今年もまた生き延びちゃったなあ、って思うんだよ」



―――ごく、ごく何でもない事のように、笑いながらそんな哀しい台詞を吐く先生を



俺は一生、離したくない。



先生が生き延びている事を、心底幸せだと感じるようになるまで。

誕生日には、究極に美味い秋刀魚を焼いてやろうと決めた。



そして俺は、さっき一緒に食べた秋刀魚の香が残る唇に口付ける。

決して甘くはないけれど、それは間違いなく、

―――幸福の味がした。








「…あ、と…10月にも、まだ旬だろ?…お前の、誕生日。一緒に食べながら、さ。お前、が…今年も無事でいてくれて良かった、って…思えるから」


ハァ、と息を乱した先生が、途切れがちに伝えてくれた言葉を聞いて、俺はとりあえず今夜も先生を離せそうにないな、と思った。









後書に続く
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