忍であることの前に

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はたけカカシという男は、意外にも几帳面ではない。

無論、忍にとっての公の場──任務やそれに関わる書類など──はどんな些末な事でもないがしろにする事など無い。
が、こと私生活となると別人のように無頓着だ。

ただの部下だった時には知りえなかったが、こうしてその枠を大きく逸脱して付き合うようになって初めて分かった。

はたけカカシという男はいわゆる“片付けられない人”なのだと。

下忍時代、偏った食事ばかりでは丈夫な身体は作れない、忍者は体が資本だ、と度々野菜を届けてくれた時も、散らかった部屋を見ては「まずは掃除からだな」と来る度にこまめに片付けさせるものだから、てっきり綺麗好きで几帳面なのかと思っていた。

おかげでいつの間にやら、いつカカシが来ても何も言われない程度に部屋は保たれ、散らかり過ぎる前に片付けるという習慣がすっかり身に付いてしまった。

それが、どうだろう。

難しい任務がたて続けに入れば掃除が億劫になるのも分かるが、例え休みが入ったとしても片付ける気など無いのだ、この男は。

幸いにも元々物が少ないため、掃除自体にさほど時間はかからない。
が、せっかく綺麗にして帰っても数日で元の惨状に戻ってしまう。

たまの休みに恋人の家で甘い一時を過ごそうと足取りも軽やかに向かってみれば、玄関を開けてすぐに足の踏み場もない状態が毎回広がっている。

先ずはそれらをどうにかして居心地の良い空間を作らねば落ち着いてくっつくことも出来ない。

こんな事が何度も続けば、流石に“仕方ねぇなあ”では済まなくなってくる。
しかし当の本人に幾度言ったとしても返ってくるのは
「ん?だってオレよりナルトの方が片付け巧いでしょ?適材適所って言うじゃない」
といういささか的外れな答えと、反論する気を削いでしまうゆったりとした笑みだけ。

もうこれは諦めるしかないのかと思いながらも、やはり釈然としない。
己が完璧に出来ている事しか他者に言えないという訳ではないし、そうであれば誰にも何も言えなくなってしまう。

幼い自分に片付けろと注意していたカカシが掃除下手だったからと言って、別に何も責められる事ではないのだが…
どこか引っ掛かるものを感じてしまう。

こういう時頼れるのは、あの桃色の髪をした少々手の早い彼女しか思い浮かばなかった。
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