忍であることの前に

□11.11/11.22
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どうしてこんなことになったんだろう。

どうして、先生の唇と俺の唇が、あと1センチあるかなしかの距離で触れ合おうとしているんだろう。

俺と先生をほんのわずかの距離で繋ぐのは、細い棒状のプレッツェル生地にチョコレートがかかった一本のお菓子…そう、誰でも知ってるあのお菓子だった。





11.11





これはゲームだ。

あくまでも、飲み会での悪ふざけに過ぎない。



木の葉舞う秋も深まった夜長、ちょっとデカくて長丁場な任務が犠牲者も出ず無事に終了してお疲れさん、の会が酒酒屋で開かれていた。

任務に携わった忍は六個小隊、のべ24名。新米中忍からベテラン上忍、同期から大先輩まで顔ぶれは様々だ。
だけどみんなこれだけは一様に、一人も死者を出さずに今回の任務を遂行できた事を、ただ喜んでいる。
誰一人、慰霊碑に名を刻むことなく終えられたと。

だからみんな、最初から羽目を外し気味で。
キャリアにかかわらずざっくばらんに酒を飲みかわし、互いに成功を祝っていた。

慰労会という名前の馬鹿騒ぎが始まって2時間、宴もたけなわという頃。とあるゲームが始まった。

「さてさて紳士淑女の皆々様、盛り上がってきたところで、恒例のイベントいってみましょーか!」

額当てを後ろに回して、前で結び目を作るという個性的な装着の仕方。木ノ葉の伊達男、ゲンマさんだ。
恒例なのかよ!とか、忍に紳士も淑女もないだろ!と突っ込みドコロ満載だけど、ここはグッとこらえる。

言い出しっぺ…つーか最初からヤル気満々で準備してたに違いない。
いかにも酔っぱらった勢いで始めちゃいました的なノリでお菓子の箱を取り出したけど、俺の目は誤魔化せねーってばよ。

これって、アレだ。ほら、ふた昔前のトレンディドラマでやってたやつ。
確か平日夕方の再放送で見た覚えがある。ついつい見入っちゃうんだよな。

「はーい、皆さん、今日11月11日は何の日でしょーうか?」

や、手にその箱持ってる時点でバレバレだから。

しかし俺今日何回突っ込んでんだよとまた自分にツッコミを入れつつ、ゲームの行く末を見守る。

「はーい!ポッキー&プリッツの日で〜す!」

「ピンポーン♪そう、キバ君大せいか〜い」

おい、キバ、お前なんで、んなノリノリなんだよ。
ゲンマさんも普段とキャラ違い過ぎじゃね?

つーかキバ、絶対狙ってんだろ。
今回の任務にはキバの好きなあのコも参加してる。
ゲンマさんがポッキーの箱を取り出した時の、あの獲物を狙う狼みたいな眼。あからさまだってばよ。

「ポッキーと言えば…」

「そう、ポッキーと言えば!」

「「ポッキーゲ〜ム〜!!」」

…こんなのが戦闘のスペシャリストと次代を担う犬塚期待の星だなんて、木ノ葉の行く末が本気で心配になってきた。

だけど、周りを見渡せばどの顔も笑っていて(ちらほらと苦むさい顔も見受けられるけど)、こういう緩んだ空気、実の所俺だって嫌いじゃない。
うん、これが俺の好きな木ノ葉だ。

「えー、何故かここに用意してありますくじ。これをそれぞれ引いて頂きまして、二人一組のカップルになってもらいまーす」

手に馴染む焼物の焼酎の杯に入れられたくじが次々に回される。

…ん?
ちょっと待てってばよ。
ここにいるメンバーは、どう見ても女の子よりヤローのが多くないか?

ものすごく、
ものすごく嫌な予感に駆られながら、俺はくじを一本引いた。

割り箸を割って作られたくじの先っぽには、墨で“戌”と書かれている。どうやら、印の型12種類を使っているらしい。ここにいるのは24人だから、それぞれペアになるにはうってつけだ。
やっぱり、最初からヤル気だったじゃねーか。
シカマルがここにいたら、絶対『めんどくせぇ』って言うだろう事が目に浮かぶ。
生憎と、アイツはメンバーには入ってないけど。

どうせなら可愛い女の子とペアになりたいもんだと思っていたら、仕切りの声がかかった。

「どうやらみんなにくじが回ったみたいだな。見ての通り、それぞれ同じ印の書かれたくじを引いた者同士がペアになってもらう」

ゲンマさんの口調はいつの間にか素に戻っていて、宴会でのおふざけのはずなのに、何故か真剣勝負のような気配が漂ってきたのは俺の気のせいだろうか。

「んじゃ、はじめ!」

号令とともに、ペア探しが始まる。

あれ?
みんなやけに何か…

“申!申のヤツどこだ!?”
“寅の人、誰?”
などと、真剣そのものの顔で一斉に互いを呼ぶ声が飛び交う中、俺ひとり置いてきぼりをくらったような心境になっていた。

え?え?何でそんな真剣になってんの?

意味が分からないまま“戌”印のくじを握っていると、ゲンマさんが話し掛けてきた。

「お、ナルト、どうしたー?訳分かんねえってツラだな…ひょっとして、お前このイベント初めてか?」

こくこくと頷くと、ゲンマさんはにやりと口の端を上げて言った。

「さっき初めに『恒例』っつったろ?これはな、ただのゲームじゃない。木ノ葉伝統の“ポッキーゲーム”だ」

いや、それは知ってるから。

「フッ、まだ分かってないな。このゲームの勝者は、敗者に何でも一つだけ“お願い”を聞いてもらえるんだ」

うんうん、お願いを…
って!
えええマジかよ!??

「な、何でも?!」

「そうだ。どんな無茶な“お願い”でも聞かなきゃならない。だからこそみんな、真剣勝負なんだよ」

ちょ、
ちょっと待てってばよ…!!

確かこれで結婚したヤツもいたっけなあ、なんて世にもオソロシイ台詞をさらりと吐きながらゲンマさんが離れて行った後、俺は震える手でくじを握り締めた。

俺の、相手って…

その時、目の前に一本のくじが差し出された。
先っぽには“戌”の文字。

それを認識した瞬間、バッと頭を上げた俺の目に飛び込んできたのは、

今回の任務で総隊長を務めた、勇名轟く百戦錬磨の上忍。

そう、眠そうな眼の元上司、

カカシ先生だった。
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