忍であることの前に

□お年玉
1ページ/2ページ


「どわっ!汚ねー!!カカシ先生、これやべぇって!どうやったらこんなに散らかせんの?!」

「汚いとは失礼だねお前。オレはどこになにがあるか把握してるからいいんだよ。それに共有スペースはそれなりにちゃんと片付けてるでしょ」

「つったってさあ、もう今年も終わるワケだし、自分の部屋くらい綺麗にして新年迎えた方がいいだろ?」

「…メンドクサイ」

「なにどっかの参謀みてーなこと言ってんの。はぁ…昔はしょっちゅう俺に片付けろって言ってたくせにさ。自分はこれだもんな」

「そーだっけ?」

「そーだってばよ!お年玉ちらつかせて、大掃除しろって言ってたのは先生だろ。結局なんだかんだ理由付けて、くれたことねーし」

「何時の話だよ。でも…そう言えばそんな事もあったっけな…」

「もー、先生ってばこんなに片付け下手くそで、今までよく任務に支障出なかったよな。忍具だって失くすよこれじゃ」

「だからオレは困ってないんだって。それに、頼んでもないのにたまーに片付けに来るヤツがいたしね」

「それってば俺のことだろ?」

「…あー、うん」

「なに今の間」

「何の事だよ」

「アヤシイ!ぜってーアヤシイ!」

「だから別に何でもないって。……ヤマトがたまに来てたくらいで」

「…!やっぱアヤシイじゃんか」

「しつこいねお前も。何が怪しいんだよ」

「だって、ヤマト隊長ってば先生のことめちゃくちゃ好きだろ?」

「なーに莫迦な事言ってんだ。ヤマトはただの後輩だよ」

「先生はそうかもしんねーけど、隊長はそれだけには見えねーんだもん」

「あのなナルト、いい加減にしとけ。男の嫉妬は見苦しいぞ〜」

「男が嫉妬して何が悪いんだよ!!
……………。隊長って掃除上手い?」

「ん?あー、ま、アイツ几帳面だからね。手際いいし」

「ふーん……。な、先生、あん時のごほうびってまだ有効?ちゃんと大掃除したらお年玉くれるってやつ」

「藪から棒だな。もうお年玉もらうような歳じゃないでしょ?」

「いーじゃん。今度はばっちり綺麗にすっからさ。一回くらい『先生の』お年玉もらいたい。な、先生、いいだろ?」

「どーも…なんか腑に落ちないけど。ま、オレがノータッチでいいんなら」

「おう!先生は“なんもしなくてイイ”ってばよ」

「そ?じゃ、オレは本でも読んで待ってるから。後は宜しく〜」



───というやり取りののち、オレは矢鱈とイイ笑顔で見送るナルトを若干不審に思いつつも、部屋を後にした。

今から考えればナルトの言動には色々とおかしな点があったのに。そしてそんな時は大抵何かしらやらかしてくれてたってのに。

全く不覚としか言いようがない。
後悔先に立たず。もしくは後の祭り。
…昔の人はよく言ったものだ。





お年





「…ぁ、あ……!」

ナルトが見事なほど綺麗に大掃除をしてくれた部屋で一緒に年越し蕎麦を食べ、あとは初日の出を待つばかりという年越しの夜。
何の因果か、オレはもう、必死で耐えて耐えて、なのに耐えきれずこんな妙な声を上げる羽目になっている。

「ふぇんふぇい、ど?ほれ、ひもひよふねえ?」

「う、あっ!馬っ、鹿やろ、そこで…ん、しゃべるな!」

おかしいと思ったんだよ。
『先生の』お年玉だなんて。
普通『先生からの』って言うもんだろう。

オレとした事が。
ナルトは普段からちょいちょい言葉の使い方を間違うやつだから、気になりつつも、ついついスルーしてしまったのが運のつき。
まさかアイツが欲しがっていたのが文字通りの“玉”だとは……

「ん?せんせい気持ち良くねーの?」

ソコから口を離したナルトが、顔面蹴り飛ばしたくなるような事を訊いてくる。

「んなワケないか。だってすげえとろとろだらだら零れてるもんなあ。先っぽから」

おまけに『カカシ先生って、クチよりカラダの方がずっと正直だし。あ、下のクチは素直だけど!』だと!?


……今ほど切実にこいつを土遁で地中に埋めたいと思った事はない。

しかし。

「ん、っ…」

正直ものすごく、気持ちがいいのだ。非常に遺憾な事に。

「っ、ぁああ」

ナルトの熱くぬめる口内で、しゃぶられ転がされ舌平でねぶられ、ころころと飴玉のように味わい尽くされて。時々尖った歯が掠める度に肌が粟立った。
頭を高くもたげた性器に引っ張られ、吊り上がったところをこりこり揉みしだかれる。

痛みと紙一重の強い愛撫に一々反応して強張る恨めしい内腿。そこを愛おしむように口付けられ、足の間で揺れる鈍色に光る髪が抜けるのも構わずぎゅうと掴んで、辛うじて正気を保つ。

ああ、オレってソコが性感帯だったのね……

理性とかけ離れたところで潤む瞳と思考。

「うわ、せんせー今すんごいとろけた顔してんの自分で分かってる?なんか俺、新境地開拓したかも」

…を一気に現実へと引き戻してくれる台詞に目が冴える。

オレは新境地なんぞにたどり着きたくはなかった。

「ハ…ァ…オレは、こんなお年玉やったつもりなかったんだけど?」

「俺は何年も前からもらうつもりだったけど?」

ナルトは全く悪びれる様子もなく、熱い掌でやわやわと袋を包みごつい指の節でくりりと弾力を確かめるように揉みながら言ってのける。

「いっ、ああぁーー!……っく、……お年玉はコドモだけの特権、だろ?」

「もうコドモじゃねーから、これがもらえるんだぜ?俺、大人になってほんと良かった」

またぞわぞわと背筋に快楽が走って、どうしようもなく腰が疼く。

「な?先生は“なんもしなくてイイ”って言ったろ?先生はただ気持ち良くなってくれるだけでいーの!だから、先生のお年玉もらうのも、先生の部屋を片付けるのも、俺だけ。俺だけの特権」

『覚えといて』と、興奮で上擦った声を耳に落とし込んで、木ノ葉一我が儘で嫉妬深い男がオレの頬にキスをする。

ちゅ、っと軽い音を立てた唇が、ついさっきまで自分のアレを舐め口に含んでいたのを思い出して、とてつもなく居たたまれない気持ちになった。


ああ…やはり、コドモ相手にだって『お年玉をやる』なんて簡単に口にするものじゃない。

今回の事で、心底、骨身に染みた。


でも、ま…


「次は来年の正月、な」

たまには大人にあげる『お年玉』ってのも悪くないかもしれない。

一年に一度、くらいは。






後書に続く
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ